遭遇者

5/7
前へ
/217ページ
次へ
 座席に収まったあとも瑞稀は話を逸らして誤魔化し続けていたが、離陸をすると、約束を守って一緒に飛行機に乗ってくれた久世に配慮をしたのか、普段は見せないようなおずおずといった調子で説明を始めた。  瑞稀の話は簡潔だった。  あるオンラインゲームで親しくなったユーザー達がオフで会おうと盛り上がったことがあり、その時に集まったメンバーの中に須藤がいたのだと言う。瑞希自体、そのオフには面白半分で参加しただけで、30分もしないうちに退席をしたし、須藤とは席が離れていてほとんど話していないから、親しいわけではなく、ただの顔見知り程度だと言った。  久世は、その説明ではあの須藤の言葉とは繋がらないと思った。  それを指摘すると、瑞希は一目惚れされ慣れているからと、それ以上は取り合わない。  久世が何度蒸し返しても、瑞希は強引に話題を変えてしまう。そしていつものように自分のことや無関係の話をのべつ幕なしに喋り続けて、久世に口を挟む隙を与えなかった。  羽田空港に着陸してコンコースを出るまで、瑞希は喋り続けていた。  久世は諦めた。粘り強い方ではあったが、話すこと自体が苦手なので、あらゆる話題を途切れることなく喋り続ける瑞希を誘導することなど、久世には到底無理なことだった。  ターミナルからタクシーに乗ろうとしたとき、久世は聞き覚えのある声に呼び止められた。 「透! 待ってたよ」
/217ページ

最初のコメントを投稿しよう!

183人が本棚に入れています
本棚に追加