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婚約者
『透か?』
「……悠輔」
『久しぶりだな、俺のかわいい人魚姫』
知らない番号だったから油断した。生田からの連絡だと思って出たのだが、元彼の西園寺悠輔からの電話だった。
半年後には帰国すると言って、西園寺がニースへ発ってから半年以上が経過していた。
久世は無言のまま電話を切ろうとした。
『生田くんは結婚したんだろう?』
切ろうとした瞬間に聞こえたその言葉に、久世は思わずスマホを耳に当て直した。
『切るなよ。暇だろ? 俺の親父が休暇中で、お前の仕事も一区切りついたところのはずだ。愛しの生田くんもいないことだし』
久世は西園寺の父親である西園寺議員の秘書官を務めている。
「なぜ雅紀が結婚したなどと言う」
『俺の耳はあちこちにあるからな。それより自宅前だ。下りてこい』
「もう二度と会わないと言ったはずだ」
『生田くんのことが気にならないか? 連絡がつかないだろう?』
確かに生田とは連絡がつかないどころか、どこにいて何をしているのかの情報もなかった。
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