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マモルだった。タクシー乗り場の方から駆け寄ってきて、いきなり久世の腕に手を回した。
久世が反応に困っていると、マモルは目の前に停車しているタクシーに久世を押し込んだ。
マモルも乗り込んで行き先を告げる。久世は抵抗する間もない出来事に唖然とした。
「あれ? そう言えば婚約者と一緒だったんじゃないの?」
そう言われて瑞希の存在を思い出した久世は、既に発車して遠ざかり始めているタクシー乗り場を振り返ったが、その姿は見えなかった。マモルは気が付かなかったのだろうか。久世の側にぴったりとくっついていたし、かなりの美人だから目立っていたはずだが。
「なぜわかったんですか?」
「それ聞く? また悠輔に『お前は何も知らなすぎる』とか言われるよ」
マモルは西園寺のモノマネをして見せたあとに豪快に笑った。
「……どこへ行くんですか?」
マモルは久世に向かって片手を開いて『待て』のようなポーズをすると、スマホを操作して耳にあてた。
「あ、悠輔?……うん。今捕まえて向かってる。え? ……二時間くらいじゃないかな? ……嘘嘘! ごめんごめん! わかってるって。……はいはい。じゃあ」
マモルは通話を切った。久世が自分を見ていることに気づいたマモルは、ニヤッと笑顔を向けて言った。
「ホテルに寄って行こうと思ったけど、ダメだって」
笑顔が瞬時に残念そうな表情になる。マモルはコロコロと表情も動きも変わる男だ。
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