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妻の愛人
久世が目覚めたときには既に、西園寺邸の門をくぐった奥にある、離れの前にタクシーは停車していた。
マモルが先に降車する。久世が続いてタクシーから降りると、建物の一部となっている車庫に晶の姿が見えた。
あの真っ赤なジャガーから降りてきたところだった。
晶とは一週間ぶりだった。西園寺に呼び出されたクラブで何度か顔を合わせていたが、晶は久世に対してあまり興味がない様子で、個室に同席していても二人はほとんど会話をしなかった。
それに晶は参っている様子で、お気に入りの女性と最近会えていないと毎晩酒を煽って管を巻いていたから、久世は近寄ろうとしなかった。
マモルの後を追って離れの中に入ると、西園寺の姿があった。
何度も呼び出されていたのに、西園寺はクラブへ顔を出さなかったので、久世が逃亡したとき以来ということになる。
久世に待ちぼうけを食らわせ続けたことを悪びれるどころか、西園寺はいつと変わらぬ平静な様子だった。
西園寺が他人の気持ちに配慮をすることはない。自分の気分や調子を表に出すこともほとんどなく、いつも陽気な笑顔を浮かべて豪胆に反応するだけで、感情的になったときも、そう振る舞って見えるほどに空々しい。
「俺のラプンツェルは、ようやく帰ってきたか。もうどこにも行くなよ? ここから出勤しろ」
「……そうはいかない」
「お前はあの得体のしれない女の方がいいと言うのか? この晶よりも?」
西園寺は、少し離れたソファに座って煙草をふかしている晶を指した。晶は目を開けたまま夢でも見ているような様子で、ボーっとしている。
晶を見て、西園寺は目の色を変えた。
「マモル、晶をやめさせろ」
マモルはそれを聞いて急いで晶のところへ駆け寄った。
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