妻の愛人

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 久世はどうやってそのタクローがミキを呼んだのかが気になったが、聞いても教えてくれないだろうと思って黙っていた。 「タクローの頼みを無視することはできない。タクローに歯向かうと、都内のクラブには出入りできなくなるからな」  西園寺は自分で優しい男だと自己評価するだけあって、聞いてもいないのに親切にも説明してくれた。  久世はミキよりも、そんな権力を持つ物珍しさにタクローの方に興味を引かれたが、二度と会うことはないだろう。  フロアのバーで酒を飲んだ後に西園寺と久世が例の個室へ入ると、既にミキは来ていたようで、晶の側に見知らぬ女性が抱きつくようにして仲良く座っていた。二人は親しげな様子で会話をしている。  晶は西園寺に気がつくと、上機嫌な様子で声をかけた。 「悠輔、借りを作った」  それだけ言って、またミキと向かい合ってコソコソと話をしたり、二人でいちゃつき始めた。 「透のことも忘れるなよ」  西園寺は囃し立てた。  その声でミキの肩が微かに震えたが、誰もそれに気がつかなかった。
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