妻の愛人

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 ミキが晶に耳打ちをすると、二人は個室から出ようというのか同時に立ち上がって、まだドアから入ってすぐのところに立ったままの久世の方へ向かってきた。  二人はベッタリとくっついて顔を寄せ合っているため、ミキの顔ははっきりとは見えない。  久世は興味のない様子でただ二人の歩みを眺めていたが、ふとした瞬間にミキの仕草に見覚えがあるような気がして、目を凝らした。  晶とミキが久世の横を通りかかった瞬間、久世はミキの腕を掴んだ。  ミキは驚いて立ち止まる。  ミキと寄り添っていた晶もその拍子で立ち止まり、久世がミキの腕を握っていることに気がつくと、久世を睨んで言った。 「透、ミキに惚れても無駄だ」 「そうではない」  久世は晶にそう言ったと、ミキの方へ向き直った。 「すみません、あの、もしかして……」  久世がそこまで言うと、ミキは女性とは思えないほどの力で久世の手を振り払って、いきなり駆け出した。  しかしドアを通ろうとしてあと二歩のところで、西園寺がミキの前に立ち塞がった。  驚いたミキは思わず立ち止まる。 「おい女。透がお前に用があるって言ってるんだ。逃げるなよ」  西園寺は笑顔で言いながらも、ミキを威圧した。  ミキは西園寺の横を通り抜けようとしたが、西園寺はそれを許さない。頑として動かず通れないようにしている。 「……どけよ! この半身不随野郎!」  ミキはいきなりドスの利いた声で凄んだ。
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