妻の愛人

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 部屋の中は凍りついた。久世も、晶も驚いて固まった。  西園寺はそれに片眉を上げただけでその場を動こうとしない。 「男と事故って政界へ進出できなくなった負け犬が、邪魔してんじゃねーよ!」  ミキはそう言うと、西園寺を押しのけようと力いっぱい西園寺の上半身を押した。  西園寺はびくともしない。 「どけよ! クソッ!」  ミキが西園寺の身体を拳で殴る。  西園寺は気にも留めない様子でいたが、突然ミキの左腕を片手で受け止め、握りしめるように力をかけた。ミキは苦痛に顔を歪ませる。 「見覚えがあるな」  そう言って、西園寺はミキの腕を締め上げながら、顔をよく見ようと覗き込む。 「お前、……櫻田瑞稀か?」  西園寺のその言葉に、再び場が凍りついた。 「ははは! おい、透、来てみろ」  西園寺が久世の方を向いて、ミキの腕を締め上げたまま呼びかける。  呼ばれた久世はゆっくりと近づいて、その顔を見た。 「櫻田さん……」  ミキと呼ばれていたその女性は、久世のもう一人の婚約者、櫻田瑞稀だった。
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