妻の愛人

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「あはは! そうか。お前、まさか透と結婚するために晶に近づいたのか? 面白い女だな」  西園寺と瑞稀はドア近くのソファに並んで座っている。西園寺が無理やり座らせたのだ。 「うるさい! 離せ! この変態クソ野郎が」  瑞希はまだ西園寺に腕を捕まえられている。  西園寺は愉快げな顔で対応していたが、その言葉でいきなり冷徹な目を瑞稀を向けた。 「度胸があるのか、女だから手を出されないと思っているのか」  しかし瑞稀はそれに気圧されるどころか、さらにいきり立った。 「この化け物が! 西園寺、透さんを最初に惑わしたお前はいつか殺してやる!」 「ほう。そんなに透に惚れていたか。しかし透を見てみろ。完全に無視だ。いくら意気込んでも俺に効きはしないし、耳障りだ。離してやるから少し黙れ」  西園寺は瑞稀の腕をようやく離した。  瑞稀は締め上げられた腕をさすりながら、言われたように久世を見た。久世は興味のない様子でそっぽを向いている。その様子で自分のしたことを思い返したのか、瑞希は力が抜けたようにソファに背中を預けた。  晶は、瑞稀たちとは別の一人掛けのソファに腰を下ろし、両腕を膝の上に乗せて手で顔を覆っているが、指の隙間から瑞希と西園寺のやり取りをジッと見ていた。  愛する女の変わりように驚いたのか最初は取り乱した様子だったが、今は瑞希に近寄ろうとせず、彫刻のように微動だにしない普段の冷静さを取り戻して見える。 「悠輔は、自分に歯向かってくる女は好きだよね。男だったら殺してるけど」  マモルは一人、酒の入ったグラスを手にして呑気にカラカラと笑っている。
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