誕生日

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誕生日

 久世(くぜ)(とおる)は緊張して面持ちで、自宅へと向かう車内にいた。期待しないようにと考えても期待してしまう、落ち着かない一日を終えようとしているところだった。  今日は26歳の誕生日だ。ニヶ月前に誕生日を祝ったパートナーから、透の誕生日も教えて欲しいと言われて以来はぐらかしている。  免許証を見るなりしてわかることだが、久世は自分からは言えないでいた。  惚れた男のためにと、御曹司の久世でも普段は行かないような高級レストランへ行ったり、最上級のスイートへ連れ行き、ずっと彼が欲しがっていたオメガのSEA MASTER をプレゼントしていたから、無理をするのではないかと心配だった。ただただ喜ばせたい気持ちでしたことで、だったらしなければいいのに、とは考え至らず、誤魔化すことしかできなかった。  それでも少しは気にかけてくれたかもしれない、そう思うとソワソワして落ち着かない。  マンションのオートロックを開けて部屋に入る。部屋の中は薄暗い。  待て待て、まさかいきなり灯りが付いてハッピーバースデーの歌が流れるのでは……。と、期待をしたが違った。  電灯のスイッチを付けてみても、誰もいない。彼は休みのはずだが、出かけているのか不在の様子だ。部屋を見渡してみても、朝出勤したときと変化はない。
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