3 意識してしまう

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彼女の言葉に祐樹の笑っている姿が思い浮かび、胸がちくりと痛む。──苦しんでいた事なんてとっくに気付いていた。祐樹は俺と番になった時からずっと苦しんでいるさ。でも安易に彼には触れられなかった。触れる事が怖かった。ずっと大好きだった彼を無理矢理番いにし、正攻法でいかずにいった手前....どうすればいいか分からなかった。 「....笑って言うんだ。『元々怒っていないし、そんなに気を遣わないで欲しい』って。...そんなの無理だ。だって俺はずっと祐樹が好きだった。好きなのに順序を間違えた。興奮を抑えきれず、ただのαとしてうなじを噛んでしまった。....今でもたまに思い出す」 「──」 思わず敬語が外れてしまう自分の発言を聞いて目を見開き、固まる彼女。「ゆうちゃんの事が好きなの?...ずっと?」と問い返してきて、迷いなく頷く。 「大好きだよ。両思いなんて望んでない。祐樹を番として最後迄大切にするつもりだよ」 そう言ったタイミングで遠くから祐樹が戻ってくるのが確認でき「ごめんね」とだけ短く言い、ハンバーグを口にする。浮かない表情の彼女──戻ってきた祐樹が不思議そうに彼女を見つめる。.....そんな顔をしないで欲しい。 祐樹を無理矢理番の契約で縛ったのは俺の意思なのだから。 あの時...祐樹が番を解消しようとしていたのに気付き、思わずあんな事を言ってしまった。自分が最低な事をしていると分かっていた。けど、どうしても祐樹を離したくなかった。恋愛に無頓着で無関心な祐樹はこのままでいいと望んで俺と番になる道を選んだから、我儘は受け入れられた。 (祐樹の優しさを利用したと知ったら....この子も祐樹も俺の事をもっと軽蔑するだろうな) 我ながら真っ黒である。 勿論この事は絶対に言うつもりはない。番の解消はいつでも紙切れ一枚と手術で出来てしまう。今更絶対に離してなんてやれない。  胸の中にそんな内情を秘めながら、自分はなんて事ない様に食事を続けた。 ***
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