1 僕と彼の関係

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袋に入れてもらった花束をチラリと見据え、駅のホームに立つ。蘭ちゃん、本当に良い子だな。いつか自分の花屋を持つ事が夢らしい彼女は、いつ見てもキラキラしていて毎日を楽しく生きている。 (僕もあんな風に何かに夢中になれたら、Ωである事に囚われずに生きられたのかな) Ωにとってαとの結婚が幸せ。 そう自分に言い聞かせてきたからかな。 もし僕も何かいたら、あの時断れたのだろうか。 ...今更そんな事を考えても無駄か。面倒な事に変わりはない。とにかく、現状を変えるきっかけを自分でつくらない限りきっとこのままという事なんだ。 (今日は18時迄晴也はバイト...夜ご飯の食材でも買いに──あれ?) 不意に、ぐらりと視界が傾き、心臓の動悸が強くなる。心臓がまるで鷲掴みされたみたく酷く痛み、次の瞬間声にならない叫びと一緒にその場に倒れた。周りにいた人が驚いて僕に声を掛ける。心臓の痛みが増していけばいく程、意識がぼんやりとし始め、僕に向かって叫んでくれる人の声も遠のいていく。 (あ、れ...なんでこんな....心臓、痛い...) 不規則に嫌な音を立てる心臓。やけに大きく反響して聞こえてきて、生まれて初めて死の恐怖を感じた。死....僕、死ぬのか?こんな場所でこんな感じで── 「大丈夫。生きてますよ」 不意にそんなハッキリとした声が聞こえてきて、ハッと目を覚ます。どのくらい意識を失っていたのだろう。身体を起こすとそこは病室だった。どうやら運ばれてきたらしい。 足元に花束があるのを確認してホッと一息ついていると、近くに座っていた医者が「目覚めたみたいだね」と声を掛けてくる。ていうかさっきの台詞...独り言を言っていたのか、僕。恥ずかしくて目を伏せながら頭を下げる。
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