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「すみません、ご迷惑お掛けして...。僕、倒れたみたいでそれで...」
「うん。無事に目覚めてくれてよかったよ。話が変わるけど...ちょっと親御さんを呼べたりするかな。大事な話があるんだ」
医者の真剣な言葉に違和感を覚えながら「分かりました」と言われた通り両親を呼ぶ。小一時間程掛けてようやく着いた母親は切羽詰まった表情を見せながら「祐樹」と駆け寄ってくる。そして、暫くして落ち着いた僕達は医者の前に座り、話を聞く態勢に入った。
「遠方からわざわざありがとうございます。祐樹君が倒れた原因ですが....祐樹君、君は発情期の最中に息切れや動悸など起きたりした事はあるかい」
母親の前でなんて事を聞くんだ、この医者は。
番に関する話が出て明らかに不機嫌になった母親の隣で「ちょっとよく覚えてないですね」と失笑する僕。医者は少しだけ考える素振りを見せた後「落ち着いて聞いて下さいね」と間を空けて告げた。
「──」
「祐樹。このままこっちに帰って来たらどう?」
病院を出て直ぐに母親はそんな提案をしてきた。目は赤く腫れていて視線は虚ろなままだ。こんな母さんはあの日以来だ。首を振り「ごめん」とだけ短く返す。悲しませてしまうのは承知の上だ。寂しそうに俯く母親の手を握りながら「自分勝手でごめん」ともう一度謝る。
「大学には通いたい。後どのくらい生きられるか分からないけれど、やりたい事やって生きるよ」
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