1 僕と彼の関係

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「その──突然なんだけど。番を解消させてくれないかな」 意を決して出した一言。 唇を薄く開き「え」とか細い声が漏れる。今更何故そんな事を言い出すのかと思ったのだろうか。柄にもなく緊張して震え始める手を摩りながら「実は諸事情が出来てしまって」とやんわり病気の事には触れずに自分は続ける。 「色々やりたい事見つけて好きに生きたくなった。番のままでいいって言ったのは僕なのに好き勝手でごめん。家の解約とか金銭面とか色々考えないといけない事出てくるけど──」 「ちょっと待って。何で番を解消する前提で話を進めてるの?」 珍しく会話を遮り、真剣な目で見つめてくる晴也。何でそんなに焦っているのだろうか。お金が掛かってしまう事を気にしている?...いやでも、あの頃から時間は経って学生の割引とか分割手続きとかも出来るし、何より人生を狂わされたΩから離れられるというのに。 「あー...別にもう責任とか感じなくていいんだよ。僕も好きに生きるから、過去の事は忘れて晴也も好きに生きていいって事。お金の事を気にしているのならそれ込みで相談しに──」 「俺は責任だけの為に君と一緒に居るんじゃない」 「..え」 じゃあ何の為に──そう聞こうとすると不意に顔を近付けてくる晴也。焦げ茶色の綺麗な瞳が僕を真っ直ぐ見てきて自分迄視線を逸らせなくなる。 「はる、──」 視界が暗くなり、唇に柔らかい感触を感じる。数秒程の出来事だったけど、それは確かにキスだった。 ふに、と彼の唇が触れてきて重なった後、ゆっくり僕の様子を窺う様に彼は顔を離した。僕は突然の口付けに混乱を隠せず思わず顔を真っ赤にしてしまう。
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