1 僕と彼の関係

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今迄見た事がない彼の恥ずかしそうな表情は、僕にとってはあまりにも新鮮で、このまま番を解消するには惜しく感じた。元はといえば相手は僕の事を無理矢理番にした奴なのに。 もし...もしこのまま番を続けたら、もっとこいつのこんな顔を見られるのだろうか。無表情やムスッとした顔以外の豊かな表情が沢山── 「──分かった。番の解消はやめる。その代わり、これからあんたは今迄以上に僕の為に番として尽くして」 持っていた紙をピリッと真っ二つに破りながら僕はそう返した。まさか受け入れてくれるとは思っていなかったのか、彼は「いいのか?」と聞いてくる。 好きとはどういうものなのか、恋愛とは無縁に生きていくつもりだった。どうせ死ぬなら死ぬ前に、「好き」がどういうものなのか知って死ぬのもいいかもしれない。我ながらあまりにも自分勝手過ぎる展開である。 「いいよ」 「あ、....ありがとう」 「うん。じゃあ、このお話はおしまいね」 立ち上がり、うーんと伸びをしてから足元にあった花を生ける為に水を汲みに行く。あっさりとし過ぎているせいか状況の流れに少しだけ混乱している晴也は「夕食の準備をするね」と何とか切り替えて夜ご飯の支度をし始める。 こうして僕は、番の解消を取り止め、彼と一緒に死ぬ迄生きていく事に決めた。彼の好きにはきっと応えられないだろうけど、それこそ退屈凌ぎにはなるかもしれないしね。 この時の僕は呑気にそんな事を考えていた。内心小さくほくそ笑みながら破った紙を丸めてゴミ箱に放り投げる。ピンク色のかすみ草は花瓶に生け、ダイニングデスクの中央に飾った。
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