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頭がふわふわして指を動かすだけで精一杯だ。目を閉じ、終わる事だけを考えながら指を更に奥に押し込んでいく。早く解放されたい。早く──
カチャン
「──?」
不意に玄関の扉が開く音が微かに聞こえてきて動きを止める。今何時か分からないが、遅くなると言っていたあいつでは恐らくない。でもこの家に帰ってくる人物なんて一人しかない。
ゆっくりと床を踏む音が聞こえてきて、僕のいる寝室前でその音は止まった。人の気配がするのは分かる。ドキドキと心臓が鳴る中、扉はゆっくりと開く。
その場で立ち尽くしていたのは紛れもない晴也本人だった。「なんで...」と小さく呟く僕の有り様を見て、彼は何も言う事なくそのまま真っ直ぐベッドに近付き乗ってくる。ぽーっとしている僕の頬に手を当てると「遅くなってごめんね」と申し訳なさそうに言った。そして....
「番らしく...だったよね。今日は隅々迄触れるけど、本当にいいの?」
「....隅々迄?それって、えっち...するって事?」
意識がハッキリしない中で聞こえてくる彼の言葉に思わず返す。「そうだよ」と答えた彼は、鞄の中から小さな箱を取り出す。
そして、次の瞬間今迄僕の前で脱いだ事がなかった彼がバサッと勢いよく着ていた服を脱ぎ捨て、上半身を露わにした。思わずポカンとした自分に四つん這いの状態に跨ってきた彼は息を長く吐いた後、余裕の無さそうな表情で僕を見る。ヒートに当てられ、誘惑された興奮状態のαとこんな展開になるのはあの日以来だ。彼の目は真っ直ぐ自分を見つめている筈なのにどこか虚ろで少し怖い。
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