3 意識してしまう

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「井口晴也です。祐樹の──番です」 「...!」 パッと晴也の顔をガン見してしまった。 目が合い、恥ずかしそうに視線を逸らす彼は、目の前の蘭華に気付かれない様に目を一瞬だけ伏せた後、爽やかな笑顔を向ける。目をぱちくりさせた彼女は「中島蘭華です」と言った直後、前のめりに向かいの僕に近付き耳元で囁く。 「ゆうちゃん....話に聞いていた番さんがこんなにイケメンだったなんて知らないよ、私。番らしくしてって言ったからこうなったの?」 「まぁ...うん。こんな風に感情を表に出す様になったのは最近からかも。前はもっと顔が死んでいた」 思い返してみても、記憶の中の彼はいつだって無表情だった。高校時代はずっと僕の後ろを歩き、周りから後ろ指差される日々だった。僕は『可哀想に』と周りから憐れまれ、僕達は必要最低限でしか会話を交わさない──まるで主と従者の様だった。「失礼します」と僕の隣に座った彼に、彼女がうずうずした様子で言う。 「晴也さん、私達タメだよね?全然敬語使わなくていいんだよ。あ、馴れ馴れしく思ったのならごめんね」 「あ....はい。ごめんなさい、もう癖で...慣れたら外します」 そう言ってメニュー表を取り出し、じっくりと見始める彼の横顔を眺める。そういえば...こいつ、僕以外の前でラフに話してるのを見た事が無い気がするな。というか...僕以外と関わっているのを見た事も聞いた事もない。もしかしてだけれど、彼の世界には僕しかいないのではないだろうか。
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