3 意識してしまう

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「ちょ、ちょっと他の所も見てくる。晴也も好きに動いてていいから」 「分かったよ。気にせずゆっくりね」 二人でいると頭の中がパンクしそうになる気がして、無理矢理切り上げて逃げてしまった。真反対の本棚に行った彼を見送った後、緊張の糸が解けた自分はその場で小さく溜息を零す。いちいち振り回されているせいか少し疲れた...。 ふと顔を上げると、普段あまり読まないエッセイ集のコーナーにいる事に気が付く。そこに『死』というワードが飛び込んできて、一気に現実に引き戻された様な感覚を覚えた。 そうか...忘れそうになるけど、病状は一日一日を刻む毎に確実に悪くなっているんだ。後、約一年間...この病気とどう向き合って彼との日々を過ごしていくのか考えなければいけない。 (僕が死んだら、あいつはどんな顔をするんだろう) ふと、そんな疑問が湧いた。 死んだら....きっと悲しむだろうな。僕の事をあんな嬉しそうに好きだと言う物好きな奴だ。きっと僕の為に泣いてくれるんだろうな。 本の背表紙を眺めながら何となく指でスッと引き抜く。『死とはどういうものか』というタイトルを見ていると、途端に自分の存在がこの世界とは別にある気がした。 (相変わらず死ぬ事を怖いと思う事はないけど....あいつが僕の為に泣く所は見たくないかも) 今迄芽生えた事のない、ざわざわと落ち着かない感情が胸の内を渦巻いている。コツン、と靴の音が響き、慌てて本棚に本を収める。「何かあった?」と目の前に現れた晴也にいつもみたくへらっと笑いながら駆け寄る。 「なんでもないよ」 病気の事を早く言わなければいけない。 一緒に住んでいるし番である以上、絶対に伝えないといけないと分かっているのに... 一緒に居る時間が増えれば増える程、打ち明けるタイミングを失い、何となく病気の事を伝えたくないと思うようになっていた。何でか、自分でもよく分からなかった。 ── ────
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