3.5 あの日

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上級生に怯む事なく強い口調で返す青年。 見ているこっちがヒヤヒヤした。 何言ってるんだ、あいつは。そんな事を言ったらどう考えたって逆上するのに。そう思った時には無意識に身体が動き、青年の前に自分は立っていた。掴みかかっていた手の行き場が無くなり、突然現れた俺の姿を見て混乱する。 『な、何すんだよ。邪魔だ。どけよ』 『──この子に用がある。邪魔はあんただ』 話が通じない男を無言の圧で睨みつける。ピクッと怯んだ相手は舌打ちだけ吐くと、そのまま何処かに行ってしまう。はぁ、と一息吐いて振り返ると、いつの間にかしゃがみ込んでいた青年が『大丈夫?』と蹲って俯いたままの生徒に話し掛けていた。話し掛けられた生徒は小さく頷きながら、か細い声で『ありがとう』と何度も呟いていた。そうして立ち上がった青年は、この時初めて僕と目線を合わせた。 透き通る様な瞳、真っ直ぐな視線、中性的な顔立ちに長い髪──一つひとつが魅力的で思わず見惚れてしまっていた。 青年は『来てくれてありがとう』とうざったそうに長い髪の毛を無造作に縛る。お礼を言われている事に気付くのが遅くなり、数秒の間を空けて『いや、俺は何もしていない』と慌てて返す。青年は困った様に笑った後、ぐりぐりと自分の鎖骨辺りを指で押しながら続ける。 『もう少し早く来て欲しかったなぁ。遠くから見ているだけじゃなくて』 『あ...ごめ...』 『──うそ。助けてくれてありがとう』
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