3.5 あの日

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──気が付いたら自分は無我夢中で彼に覆い被さっていた。ヒートに当てられラット状態になった際の記憶は飛んでいる。後から事情聴取を受けた時も何も答えられなかった。覚えているのは甘い匂いと果実の様に熟れた彼のお尻の穴に無理矢理自分の性器を捩じ込んだ時に押し寄せてきた快楽のみ...我ながら最低最悪な奴だ。 『あんたっ..人様の子を襲って...無理矢理番にするってどういう事なの?!』 病院に緊急搬送された彼と一緒に運ばれた俺が意識を戻した時には青褪めた両親が自分を気持ち悪いものを見る目で見ていた。起きるや否や思いきり引っ叩かれ、頬にジリッと電気が走ったみたいに熱くなる。母親はボロボロ泣きながら『そんな子に育てた覚えはないのに』と泣き崩れ、父親は視線を逸らさず黙って俺を睨んでいた。その様子を、同じ様に意識が戻った祐樹が母親に支えられる様にしてこの光景を眺めていた。 自分で言うのもだが、当の本人である彼はこの事態をあまり深刻に捉えている様に思えなかった。ただボーッと事が過ぎるのを待っているみたいだった。 『番が...成立していますね』 医者にそう言われた時もそうだった。俺は流石に事の深刻さを実感し始め、青褪めた顔を俯かせていた。祐樹は何やら考える素振りを見せるが黙り続けていて彼の母親は静かに泣いている。いっその事怒鳴ったり怒ったりしてくれたらいいのに──いや、そんな事をしても現状は変わらない。彼の事だから、きっとそう思っているのだろう。だから俺は彼の性格を利用した。 『責任を取ってこれからは山内さんの側で山内さんの為に生きます』 彼が何か言い出す前に俺はそう言い切り、頭を下げた。『....本気?』と流石の本人も驚き、予想しなかった展開に置いていかれている様子だった。 普通ならこんな事到底受け入れられない。 今は番解消証明書を提出し、高いとはいえど手術を行ったら解消が出来てしまう世の中── レイプしてきた相手が番だなんて、本来なら直ぐに解消する筈。でも... 『番、解消しなくていいよ。僕の番はあんたのままでいい』 君が自分の人生をこんな風に適当に決めてしまうくらい自分自身に無頓着な事を、俺は知っていたよ。   彼に見えない所で思わず口角が緩みそうになったのを必死に抑えて頭を下げる。犯した罪を償いながらも、許される限り彼の側にずっといられる。そんな事を考えてしまう俺はやっぱり最低最悪な奴だった。
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