5 君と紡ぐこれから

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そうして僕は実家の敷地内に足を踏み入れた。実家に帰るのは高校生以来かな。見慣れている筈なのにどこか懐かしく感じる。玄関のドアノブにそっと手を掛け引く。懐かしい実家の匂いに無意識に泣きそうになりながらも堪え、僕は家に入った。 「──ただいま。母さん」 視線の先に居たのは数ヶ月振りの母親だった。洗濯物を畳んでいる最中だったのか、タオルを抱えた母親がたまたま玄関付近を歩いていた。立ち尽くす僕を見て目を見開く彼女。タオルを床に置くなり、ゆっくりと僕に近付き抱擁する。 「──おかえりなさい、祐樹」 ──母さんの匂い。 落ち着くなぁ。 「ただいま」と抱き返したタイミングでリビングから父親が現れる。「父さん、仕事は...」と言うと、目の前迄来た彼は困った様に笑いながら続けた。 「祐樹が、大事な話があるって言ってるって母さんから聞いたから休んだんだ」 「──そっか。忙しいのに、わざわざありがとう」 穏やかな笑みを浮かべて笑い合う二人。しかし、ガチャリとドアノブが回された音で表情は一変する。扉の向こうから晴也の姿が見えた瞬間、彼等は驚いた表情で呆然と彼を見た。全員の視線が集中して若干怖気付く彼を見て、慌てて「こ、この人は....」と説明しようとするが、晴也に首を振って止められる。そして、僕の隣に並んだ彼は、勢いよく頭を下げ「突然お邪魔して申し訳御座いません」と告げる。 「──井口晴也です。....お久し振りです。今日は、どうしても伝えないといけない事があって来ました」
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