6 さよならの向こう側※

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6 さよならの向こう側※

「ゆうちゃん!水、お願いしてもいいかな?」 忙しなく店内を動き回り花の数をチェックする蘭ちゃん。顔を上げた僕は「分かった」と慌ててじょうろを持って外に出る。サーッと花に掛かる水が太陽の光が反射して宝石みたいにキラキラ散っていく。 冬の割に今日は少し暑いな...。思わず額の汗を拭っていると途端に視界が暗くなる。顔を上げると、日傘を僕の方に傾けながら立つ晴也が居た。「祐樹。日差し、暑くない?」と心配そうに見下ろしてくる彼に苦笑いしながら返す。 「晴也....今日大学だよね?僕は今日全休だからバイトしてるんだけど何で此処に居るの...?」 「今日は早めに終わったから帰ってたんだけど、そういえば祐樹今日バイトだったなと思って帰るついでに寄ってみた。此処、家から近いし」 「そうですか。じゃあ仕事中なのでお帰り下さい」 でも...とごねる彼を「ほら、いったいった!」と無理矢理花屋の敷地外に追い出す。クスクス笑いながらその様子を見ていた彼女は「晴也さんったらゆうちゃんの事大好きだよねー」と楽しそうに言う。 僕は、蘭華の働いている花屋でバイトを始めた。バイト中に倒れてしまう可能性が今後出る為、事情を知っている上で考慮してくれる彼女の元で働く事を決めた。たまにこうして僕の事が心配で仕方ない晴也が様子を見に来る。大学もバイトも恋愛も、僕の人生は今が充実していた。
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