6 さよならの向こう側※

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(──嫌だ) このままお別れなんて嫌だ。 晴也の隣にずっといたい。 手術が終わって早くあの家に帰りたい。 帰ったら彼に抱き締めて貰うんだ。 優しく力強い腕で引き寄せられ...『おかえり、祐樹』って撫でられたい。 生きたい。僕は生きるよ。 絶対に生きて帰るって約束したのだから── 「──、」 視界が開けた途端、一気に明るくなり眩しくてゆっくりと瞼を開ける。...知らない天井だ。ぼーっと窓の外を見ると、今は昼なのだろうか、明るい日差しが中に入り込み、カーテンが柔らかい風で揺らいでいる。 「....生きてる」 ボソッと呟くと、僕の小さな独り言が室内に響いた。何となく扉の方を見て、ふと気が付く。ベッドの傍で顔を伏せて眠る青年の姿がある。もうすっかり見慣れた筈なのに、どこか懐かしく感じてしまう大好きな彼の匂い。スッと頭に手を伸ばして撫でる。ピクッと肩を振るわせた彼が眠たそうに目を擦りながら顔を上げる。そして、僕を見るなり少しずつ現実に引き戻されていく様に目を見開いていく。 直後、病室の扉が開き、突然現れたナースが起きている僕を見るなり驚愕した様子で声を上げる。辺りがバタバタと忙しなくなり、未だ放心状態の僕は「えっと...」と掠れた声を漏らす。
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