6 さよならの向こう側※

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「なんで....晴也がこんな所に──」 居るのかな、と言い掛けて、彼が涙を流し始めたのを見て思わず動きを止める。静かに涙を流す彼は目の下にクマが出来、酷く疲れた表情をしていた。どのくらい、いつから僕の側に居たのだろう。髪の毛も寝癖が付いていて、少しだけやつれている。僕の手を取り、自分の頬に当てながら「祐樹」と名前を呼ぶ。 「....祐樹。笑顔で言うつもりだったのに泣いてごめん。.....生きて帰ってきてくれて、本当にありがとう」 そう言った彼から掌越しに震えが伝わってくる。何でこんな所に晴也が居るのか、色々聞きたい事は沢山あるけれど、手術は無事成功して僕はこうして生きて帰って来れたのだ。安堵と喜びの感情が押し寄せ、堰が切れた様に涙が溢れ出る。そして、ずっと待ち侘びていた言葉を彼は泣きながら下手くそな笑顔で告げた。 「おかえり、....祐樹」 「──ただいま、晴也!」 僕は泣きじゃくりながらも同じ様に笑顔をつくり、彼の胸元に向かって抱きつく。 ──発作を起こし倒れてからの十時間以上の緊急手術の末、昏睡状態が続いていた僕はこうして無事に意識が戻った。意識不明で生死を彷徨っている僕の側に居たくてアメリカ迄わざわざ来て晴也はほぼ寝ずに見守っていたんだとか。目覚めた時一番最初に大好きな人と再会出来て、僕は幸福で満たされていた。 「連絡したのは私だし、祐樹の事を凄く好きなのは分かってはいたけれど、まさかアメリカ迄来ると思わなかったの」 母親も、既に飛行機に乗って向かっていると連絡を貰った時は流石に仰天したらしい。 色々手続きを終えて、ようやく退院出来たのは数日後だった。年を明ける前に僕達はようやく日本に戻る事が出来た。車椅子を押していた晴也が「信じて待とうと思ったんですけど、どうしても待っているだけじゃもどかしくて...」と困った様に笑った。泣き過ぎたせいか、僕も晴也も目が真っ赤に腫れていた。
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