6 さよならの向こう側※

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そうして『様子を見ながらまた連絡する』を条件に母親と解散し、家に帰ってきた僕達。 久々の我が家に着くなり「ただいま〜!」と子供みたくソファにダッシュしダイブする。しかし、玄関で靴を脱がずに立ったまま動かない彼は、そんな僕の様子を微笑ましそうに眺めている。何も言わずにジッと見つめられ、急に恥ずかしくなった自分はソファで寝転んだ状態で顔だけ覗かせ「晴也も早く家に入ってよ」と手招きする。 「ごめん.....感動してて」 「感動?」 靴を脱ぎ、真っ直ぐ僕の側まで歩いてくる晴也。ゆっくりと腰を下ろして僕の頭を支えると、顔を近付け静かに唇を重ねる。久々のキスだった上になんの前触れもなくきたせいで「なっ...」と初めてのキスをした時みたいな気持ちになってしまう。唇が離れ、また次が来るかと思いギュッと目を閉じると、彼はそれ以上は何もせずにポツリと呟いた。 「手術を受ける前迄、何気ない毎日を過ごしていてその日々に慣れていたから当たり前の様に感じていたけど.....この家に一緒に帰って来れた事自体が奇跡なんだよね。......祐樹が俺を諦めないで戦ってくれた事が嬉しくて、.....愛おしくて仕方ない」 頭を撫でながらそう言った彼は、今度はギュッと寝転んだ僕の上半身を抱擁する。無言で起き上がった僕は、ゆっくりと座り直し「ん」と両腕を大きく広げる。彼はキョトンとした顔で僕を見る。 「.....全身で.....ギュッとして欲しい」 ふにゃっと笑った晴也は「いくらでも」と僕の背中に腕を回すと、ひょいと抱っこの状態で僕を軽々と抱えてしまう。「高い高ーい」とクスクス笑う彼に「子供扱いしない」とムッとなり、そのまま彼の頭をギュッと抱き締める。僕を支えた彼は、途端に硬直し「祐樹...?」と様子を窺ってくる。
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