序章 『そして、俺の物語は幕を閉じた』

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序章 『そして、俺の物語は幕を閉じた』

 夜の帳が下り、街は静寂に包まれる。  その中で一際目立つ、鋼を纒った影。  彼の足音だけが、アスファルトを打つ。  彼は誰か、何を求め彷徨うのか。  その答えは、仮面(マスク)の奥深くに。  鋭い眼差しは、燃え盛る巨城を見つめていた。 7ed331fc-e064-4bd7-82b4-7abcf1664c95 ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎    ――2024年5月1日。    煙が立ち込める軍事基地から、人と獣の入り混じったかのような悲鳴が響き渡る。  「ゥグ……ッ、ハァ、ハァ゙ッ」  男の腹からは、赤黒く生温かい腸がはみ出ていた。    今にもこぼれんとするそれを懸命に押し戻すが、止まることなく溢れ続け、痛みと恐怖に顔を歪める。  「ぃやだ……だ……だれかっ……いないのかっ!」  ぼたぼたと地面に滴り落ちる血を気にする暇もなく、男は声を張り上げるが、返ってきたのは静寂だった。    腹を抑えていた手に力が入らなくなったのか、だらりと手が垂れる。    男は絶望に目を見開くと、足元に肉片が落ちていることに気づいた。  それは……かつての()()()()だった。  「ぁ……あぁ……そんな……」    散らばった肉塊を前に、男はずるずると地べたに倒れこみ、頭をうずめた。  「ぅえ゙……ぅぅ……、死にたくない゙……っ」  男の嗚咽が通路内で虚しく木霊する。    それに呼応するかのように、暗がりから白銀の鎧を纏った異形が現れた。  怪人……、ヤツだ。    「ヒぃッ!……ぃ、いやだっ!」  一歩、また一歩と男の下に近づいていく。    その様は、例えるのなら命を刈り取る死神。    目の前に迫った死の恐怖に、男は涙を流していた。  「どっ、どうか!命だげ……ヴァ、ダすゲ……っ、ぅグっ!」    怪人は男の頭を鷲掴みにすると、そのまま壁に押しつける。    ゆっくりと頭を潰されていく感覚に、男は最後の力を振り絞り抵抗した。    しかし、その足掻きは虚しく、無意味に終わる。  「ゥア゙ッ、……ァ」    皮と肉、そして……骨が潰れる音。  みしりと軋んだ頭蓋骨が破裂する。    鮮血が吹き出るとともに眼球が押し出され、頬を伝って流れ落ちていく。    男の崩れていく顔とは一変、兜の隙間から覗く眼光は無機質で、なんの感情も持ち合わせていないようだった。  「いいのかよ。仲間だろ、そいつ」  それらを静観する仮面(マスク)を被った男は怪人に、そう問いかけた。  「敵前逃亡は死罪。裏切りには制裁を……それが規律というものだ」  怪人はこちらに目を向けることなく、淡々と言葉を返した。  「まだ、やるつもりか?オロチ将軍」  「無論だ。……我々『九頭竜(クズリュウ)』は世界の規律を正すため、人類の選別を行う。なぜこの程度で歩みを止める必要がある」  「アジトは壊滅。一部の幹部はアンタを残して逃げたんだぞ?」  「ふっ……。分かっとらんようだな」  ヤツは鼻で笑うと、ようやく視線を向けた。  「どっちが……。諦めろ、アンタは負けたんだ」  「力に呑まれた者は皆、物事の本質を見誤る。貴様のようにな。『九頭竜(クズリュウ)』こそが、世界を救う唯一の道なのだ」  「……もういい……終わらせてやるよ」    漆黒の仮面(マスク)強化外骨格(パワードスーツ)、無尽蔵に闘気を放つ男の姿はまさに鬼神そのものであった。  一歩、また一歩と間合いを詰めていく。  オロチは表情ひとつ変えず腰の大刀に手をかけ、居合いの構えをとった。  「人語を解す鬼に成り果てよって……、来るがいい『仮面の襲撃者(マスクドレイダー)』!ここがキサ…マ………の……」  オロチは、目の前の光景に茫然自失となった。  対峙していた標的が、()()()()縦一閃に両断されている。  ……まさか……抜刀すら許されぬとは。  オロチはその場で、只々、立ち尽くす。  そして崩れるように膝をつき、血の海に沈むのであった。
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