第11話 葉月政宗2

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第11話 葉月政宗2

「もしかして、陰陽流空手の創始者の葉月政宗(はづき まさむね)様でしょうか?」 「ああ、そうだな」葉月はにこやかに答えた。  真示は慌てて、その場で床に正座する。創始者に対する姿勢がこれで良いのか分からなかったが、失礼にならないようにとの考えがまず頭に浮かんだ。 「いや、今日は陰陽流空手の件で会いに来たわけではなからの。朝日奈君……いや真示君の方が良いか。ソファに座りなさい」葉月はにこやかなまま、ソファに座った。  陰陽流空手とは、一般的な社会で浸透している空手ではなく、再命連の中で伝授される、殺人術である。  空手とは言っても、『指弾』をはじめ、武器の使用も許可されており、他の武道の長所を取り入れている点が特徴である。  沖縄の剛柔流空手をベースに、太極拳の様な気のコントールを取り入れており、リターナーの身体が呼吸法を利用する事で、気の吸収や制御と相性が良い事を活用して創られたと真示は聞いている。  リターナーは通常の人間の筋力や運動能力の5~10倍の力を持っている。  それでも格闘で男女が闘う場合、体格差や筋力差が出てしまい、女性リターナーが不利になる場合がある。  再命連の代表者である朝霧楓達により、他のリターナーとの戦いでも有利に立つために、そして再命連を守るために開発されたのが陰陽流空手であり、それを創り上げた創始者の一人が葉月政宗と真示は聞いていた。 「失礼します。それではソファに座らせて頂きます」  一礼して、真示はソファに座った。  しかし、緊張はする。真示は葉月の顔を見る。  にこやかだが、隙のない、そしてテーブルを挟んでいても安定した気のエネルギーを感じた。  葉月政宗もリターナーである以上、本来は不老のはずである。70代の顔や姿をしているのは、おそらくそのように見せかける『異能力』を使っているのだろう。  そのような『異能力』を使える幹部も、再命連にいることを真示は知っている。 「ま、お茶かコーヒーでも頼むかの。真示君はどちらが良い?」  本来こういうことは、目下の自分が気を利かせるべきだったと真示は焦ったが、葉月は気にしていないようだった。しばらくしてコーヒーが2杯運ばれて来た。  コーヒーを一口飲み、葉月は口を開いた。 「実は以前から真示君のことは、再命連の中でも噂で聞いていてね。一度会って話をしてみたいと思っていたんじゃよ」 「そうなんですか……光栄ですが、でも何の噂なんですか?」 「知っての通り、再命連は女性リターナーを保護し、生きるための援助をする組織じゃ。つまり裏を返せば、それだけ男から酷い目に遭わされて死んで蘇生した女性リターナーが多いということじゃな」 「……確かに。そうですね」 「だから本来、再命連は男性リターナーをメンバーには加えない。私は朝霧代表とも過去からつながりがあるから在籍が出来るが、幹部会の決定などには口は出せないようになっている」 「葉月政宗様ほどの方でもそうなのですね」 「今日は陰陽流空手の話では無いからの。呼び方は葉月師匠で良い」 「承知しました。葉月師匠」 「うむ……だから真示君が朝霧代表の『再命(さいめい)』によって再命連に加わった時、それをいぶかしむ声も一部にはあった。過去に男性リターナーを再命連に入れて、女性リターナーに加害をしたケースがあったというのもあったから無理もないがの」 「そんなことがあったんですか……」 「そうじゃの。そんな前例もある中で、真示君、君が真っ当に再命連のために働いている実績が評価されているんじゃよ。それで私も一度会って話をしたいと思っていたところだったわけじゃ」 「そうなんですか……評価されているのは嬉しいですね」  言葉とは裏腹に真示の表情は浮かなかった。 「再命連に評価されても、自分の大事な女性に評価されないのは辛いかの?」 「どうしてそれを……」 「藤原美貴は、私の直弟子での。真示君の力になって欲しいという事を頼まれたのじゃよ」 (そんな……藤原さん、力を貸してくれて、本当にありがとうございます)  真示は藤原美貴の心遣いに、厳粛に感謝した。 「とは言うものの、では私に何が出来るのかという事だがの」 「はい」 「陰陽流空手は、気のエネルギーを使った武術。私はその気のエネルギーをセックスに応用する技術を持っている」 「そんな方法があるんですか……?」 「ある。だがこれは効力がある分だけ、女性に対する敬意が無い男性に教えると、悪用の危険がある。藤原美貴の推薦はあるものの、君と直接会って話を聞きたかったのじゃよ」 「そうだったんですか……」 「藤原美貴から事のいきさつについては全て聞いているので、同じ話をする必要はないからの。話を聞いたところ、おそらく男性恐怖症を悪化させるようなことがあったと考えられるな。または当日になって恐怖してしまったか」 「自分もその可能性が高いとみています」 「性被害を受けた恐怖やトラウマがある場合、この気を応用した性技でも、上手く出来ないことはある。まずは根本的に男性恐怖症というものを緩和することが必要になるが、そのためには条件がある」 「条件と言いますと?」 「射精する事を諦めるという条件じゃな」  葉月は二口目のコーヒーを口に含んだ。
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