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第6話 千歳
(まずいな……こうなると姉さんは徹底的に追及をしてくるぞ)
真示は冷や汗をかき始める。こういう焦燥感すら読まれているのだから、本当にやりにくい。
千歳は就職先として、名古屋市内の中堅の不動産会社に決まっているので、おそらく異能力の『共感』も使えば、かなりの成績を上げるのではと真示は考えた。
「他の事を考えているでしょ?」
千歳からの突っ込みがさっそく入った。
(まずいな。かと言って姉さん相手には嘘も通じない)
少し考えて、真示は口を開いた。
「姉さん。正直に話すが、美穂のプライバシーも関係している部分があるので、その部分は黙秘で良いか?」
「美穂ちゃんも関係しているのね。分かった。話せる範囲で良いよ」
「ありがとう。結論から言えば、俺は美穂とのセックスに失敗した。それで現在連絡が取れない」
千歳はそれを聞いて、頭を抱えた。
「美穂ちゃんは男性恐怖症だったはずよね。まさか真示、強引にセックスを迫るとかしてないよね?」
「そんなこと俺がするわけないだろう? 無自覚にやっていたとすれば分からないが」
千歳としても真示には子どものころから性的同意のことを教えて来たのもあり、真示の感情から考えても、嘘ではないことは分かった。
「……なるほど。ところでその失敗って何?」
「……性交痛だよ。美穂が痛がって挿入が出来なかった」
話を聞いて、千歳はため息をついた。
「……なるほどね。しかしそれだけなら普通の夫婦や恋人でもある話よね。それだけで連絡が取れなくなるのは、何か腑に落ちないね」
「……お互いに初めてだったというのもあるが、美穂が言うには男性恐怖症が治っていなくて、俺に抱かれた時に怖かったらしい」
「真示も知っていると思うけど。私は幼少期の性被害のせいで、未だに男性嫌い。セックスの経験もその必要もないと考えているから、抱かれる事で恐怖を感じるのは理解出来る。しかし……美穂ちゃんの男性恐怖症が回復してきたのは真示が誠実に付き合っていたというのもあったはずよね。いずれにしても男性とセックスの経験が無い私だと、良く分からない点が多すぎて、力不足だわ」
(まあ、そうだろうな……姉さんでも)と真示も考えた。
「これはやっぱり、その道のプロじゃないとなかなか気づかないところもあると思う。ねえ真示。この問題は藤原美貴さんに相談した方が良いと思うけど、どう?」
「……そうだよな……なんか色々といじられそうな、突っ込まれそうな予感がするが……藤原美貴さんなら何かヒントを教えてくれる可能性はあるか……」
4年前の神聖千年王国への奇襲以降も、何度も藤原美貴と千歳、真示は共同作戦をして、お互いに信頼している関係である。
しかしこのような相談はしたことがなかった。
おそらく藤原美貴としては、多分喜んで相談を聞いてくれるとは思うが、真示としては恥ずかしさもあって気が重かった。
しかしこのままでは何も前に進むとは思えないし、時間をかければ美穂が離れていくだけだろう。
意を決して、リターナー通信用のアプリを起動すると、真示は藤原美貴にチャットを送る。この時間ならおそらく起きているだろう。
「セックスの事で相談したいことがあるんです」
時間をあまり置かずに返信が来た。
真示の緊張が高まってきた。
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