第7話 藤原美貴

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第7話 藤原美貴

「セックスのことについて相談とは具体的に何のことなんだ?」 このチャットが返ってきた。 「付き合っている彼女とお互い初体験をしたんですが、痛くしてしまって出来なくて、それでいろいろと困っているんです」 「真示もそういう悩みを持つようになったんだな。分かった。具体的に何が起こったのか話せるか? この場合はチャットではなく、電話の方が良いと思うが?」 「はい。是非お願いします」  藤原美貴は、リターナーとして蘇生した女子が、社会から弾かれてしまい、風俗産業に流れて行ってしまう傾向が多いため、逆手にとってホテヘル店を大阪で経営している。そこでリターナーの女子を匿い、売春以外の仕事をさせて、社会に復帰させる活動をしてるのだった。  彼女は真示や千歳が所属している名古屋のリターナー組織『再命連(さいめいれん)』の幹部の一人でもある。  幹部だけあって、戦闘能力やリーダーシップなどは、真示や千歳を遥かに上回る強者である。    真示としては、緊張しながらの会話になった。  藤原美貴は、条件として起こったことを全てはっきりと話すようにとしたため、真示は恥も外聞も捨てて、全ての事を話した。  少しの沈黙が流れたあと、藤原美貴は口を開いた。 「……なるほど。興味深く聞かせてもらった。結論から言うと、評価できる部分と、評価できない部分と、不可解な部分があるな」 「評価できる部分なんてあるんですか?」真示は意外だった。 「まずちゃんとコンドームを付けて避妊したことだな。基本的な事だがこれをやらない男は多い。それからきちんとセックスをする事を伝えて性的同意をとっている点だな。あとは彼女が痛いと言った時に、性行為を辞めている点だ。彼女が痛いと言っても関係なくやり続ける男は多い。あと2人でカウンセリングを受けることを提案した点だな。これは真示の優しさと配慮だと言えるだろう」 「自分だと当たり前の行為と思ってましたけど、そうですか……評価できる点があったんですね」 「そうだな。あとは模型を買ってまで女性器の場所を調べたのも良かったな。まあ痛みで入らなかったが、初体験者同士で入らないことなどザラにあるからな。とこれが評価点だ」 「評価できない点としては、これは経験不足というところだが、セックスを始めるための触れ合いがなんともぎこちなくて雑過ぎたのと、前戯も不十分な点だな。ただこれもAVみたいに、彼女に無理に口でやらせたり、嫌がる行為を迫らなかったので、学習と経験を積むことで改善は出来るだろう」 「そういうものなんですか……?」 「不可解な部分は旅行の話が出た時に、前向きだった彼女が当日にやる気が無くなっていた点だな。突然フラッシュバックが出た可能性もあるが、他の何かがトリガーになった可能性もある」 「トリガー……」  真示視点では、全く予想がつかなかった。 「ところで真示」 「はい」 「真示はなんでその彼女。桐島美穂とセックスをしたいんだ?」 「それは……男としては当然じゃないですか? 彼女とセックスをしたいって。性欲を発散したいって」 「それは一般論だろう。桐島美穂とセックスをする事で、真示は何を得たいのか。美穂をどうしたいのか。それを聞いている」  穏やかだか、真剣で切りつける様な問いだった。  真示からまた冷や汗が垂れる。 「それは……もちろん避妊した上で射精して、俺が快感を得たいってのはあります。だけども……それだけじゃない。美穂にも気持ち良くなってもらって、喜んで欲しい。彼女のトラウマになっている男だけじゃなくて、彼女の事を大事に思ってセックスする男がいるってことを、身をもって体験して知って欲しいんです」 「なるほどな。それから『性欲を発散』と言ったと思うが、なぜ『発散』と言われていると思う? 少なくとも睡眠欲や食欲を『発散』とは言わないと思うが。食欲や睡眠欲はそれが『満たされる』という言葉で満足したとして使われる。これはどう思う?」 「そう言えば……考えたことも無かったです」 「良く考えてみると良いだろう。真示の話を聞いた感触だが、もしかしたら何とかなるかも知れないな。100%の成功は約束は出来ないが。再命連には私から伝えておく。真示は連絡を待つように」 「了解です」  電話は切れた。真示としては緊張する電話だっただけに、終わってほっとした。  しかし意外だった。再命連の本来の目的は女性リターナーの保護や生活の基盤を援助していく事なのだ。  一体何の連絡が来るのだろうか。 「藤原さんと話せて良かったわね」千歳が安心したのかあくびをしながら言った。 「まあ美穂ちゃんも、私と話すのは避けたいだろうから、余計なことはしないようにする。ただ真示、アンタが絶望すると私の方にも影響があるから、何かあったら早めに言ってね。協力はするから」 「それもそうだな……ありがとう」  千歳は安心し、眠るために自室に帰っていった。    一方場所は変わり、同時刻の美穂の家。  美穂は自室で、ノートパソコンを使って、ストリーミングでAVを観ていた。  AVを見る事は、トラウマを刺激し悪化させることになるため、カウンセラーにも禁じられていたが、女友達の話を裏付けるために、どうしても見る必要があったのだった。  それは美穂にとって、さらに残酷な現実を突きつけるものだった。
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