○第1話 暗殺未遂事件

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○第1話 暗殺未遂事件

「聖女様、お願いでございます!!」 「どうぞ、殿下を……殿下をお救いくださいっ……!!」  それはもう、まもなく夜明けがくる、という時間だった。  ロアノーク聖王国の聖女を務めるクラリッサの元に、慌ただしい足音とともに人々の一団が飛び込んできた。 「聖女クラリッサ殿。この通りだ。どうか、我が子を救ってください。近く王太子になるはずだった、王位を継ぐ我が息子を」  国王自らが頭を垂れる中、クラリッサは静かにベッドから立ち上がると、言った。 「殿下の元へ、連れて行ってくださいませ」  * * *  いったん人払いをした後、聖女に仕える侍女が、すばやくクラリッサの支度を整えてくれた。  純白のドレス。  光のような、明るい金色の髪は自然に肩から背中へと豊かに流れる。  青い海のような色をした、大きな瞳。  いつも微笑を絶やさない口元は、まさに聖女のイメージどおり。  神殿の聖画を見ているようだ、と讃えられる。  支度を整えた聖女を、人々は感嘆の表情で見守った。  しかし、聖女の後ろに従う護衛騎士の表情は沈鬱(ちんうつ)なものだった。 「聖女様」 「……大丈夫よ」  クラリッサは、騎士を勇気づけるように微笑んだ。  案内された王子の寝室では、イーサン王子が、目を見開いたまま、ベッドに横になっていた。 「イーサン王子殿下……? お久しぶりです……クラリッサでございます。わたくしの声が、聞こえますか……?」  クラリッサがかがみ込んで声をかけるが、反応がない。  青ざめた顔。  かすかな呼吸。  しかし、イーサン王子の鮮やかな赤い髪、ちょっと皮肉屋さんなところのある、クールなグレーの瞳は、変わらない。  クラリッサより一歳年下の王子は、それこそお互いが子どもの頃からよく見知った幼なじみだった。  もっともその関係は、クラリッサが、正式に聖女となったことで、大きく変化したのだったが。 「王妃は自害した」  国王がぽつりと呟く。 「王妃は、イーサンを亡き者にしようとして、毒薬を飲ませたのだ。なぜそんなことになってしまったのか。聖女殿、イーサンの命だけは……助けてくれないか。私はこの子を王太子にしようと決めていたのに……。どうか、イーサンを」  国王が再び、クラリッサの前で頭を下げようとした。  クラリッサは身振りでそれを制した。 「国王陛下、全力を尽くします。どうぞ、わたくしにお任せくださいませ」  人々から一斉にもれる安堵のため息。  しかし、クラリッサは背後で聞いた、彼女の護衛騎士のため息が、全く別の意味を持つことを、知っていた。
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