《始まり》

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《始まり》

 木枯らしが吹く寒空の下、やせ細った男がやって来た。  血色の悪い肌に針金のように細く長い身体、――だが眼光は鋭い。白髪に黒髪が入り交ざったような髪をした男はある村に入る。  そこは植民地に侵されつつあるアンテリゼ村。観光業が盛んであったが軍事国家に乗っとられる危機に瀕しているのだ。  だが男はそれでも構わなかった。ただ自分の呪われた力を抑えたかっただけだったのだから。 「おい、坊主。酒寄こせって言ってんだろ!!」 「ないっす~! おいら、酒なんか持ってないっす」 「はあ? じゃあ金でも寄こせよ、クソ野郎」  アンテリゼ村出身の少年、ワックは危険に晒されていた。今はこの国を保たせようとしている村長が好きな酒を持ち運ぼうとしていたのだ。  だが軍事国家であるアレウスの軍人たちに絡まれてしまったのである。  村長の好きな酒なので飲ませてやりたいつもりだが、どうすれば良いのかワックにはわからない。 「ていうかお前、男か? そんな奇麗な顔してよ。……ちんこあんのか見てやるよ!」  男に襲われかけそうになった瞬間、ワックは髪を振り乱して逃げようと画策する。だが首根っこを掴まれて動けなくなってしまう。  ――人が通った。ワックは命からがら「助けてくださいっす!」大声で叫ぶ。しかしその者は一度こちらを見たが呆れた顔をしてそっぽを向いた。  ワックは腹が立った。 「あいつが酒も持っているし金だって持っているっす!」 「おい、ほんとかクソ坊主?」 「本当っすよ~。あいつ旅人だからたんまりっすよ!」  知らねぇ奴だけどなどと思いつつ、軍人たちの興味はワックからその男へ移った。  その男の身なりは少し不思議であった。  レザーパンツにブーツを履くのはまだ良い。だが木枯らしが吹く寒い季節に白衣を羽織っているだけの人物だ。  髪も整えれば良いのに整っておらず伸び放題で唯一、ひげだけは剃ってある。だが乱暴な髪の結わき方であった。 「おい、そこの奴。……お前、そこの坊主と知り合いか?」 「…………」 「おい、聞いてんのかよ~? ここはアレウスの支配下に入るんだぜ。媚びでもなんでも売っておかないとな」  複数の軍人が近寄り話しかけていくが男はなにもしゃべらない。ただ男はつまらなそうな顔をしてそこに立ち尽くし眼光を鋭くさせるだけだ。  一人の軍人が無視を決め込む男に腹が立ち――胸倉を掴んだ。 「おい、聞いてんのかよクソ野郎。酒はあんのか? 金はあんのか?」 「……お前、――今から死ぬぞ」 「はあ? なに言って――――ぐぅ……!?」  男たちやワックが見たのは大柄な男がぶっ倒れ顔を顔を青白くさせる姿であった。またほかの人間たちも倒れ込んでいき同様の症状を訴える。  そんな姿など見慣れている男は深く息を吐いた。 「ちなみに、俺はクソ野郎じゃない。ユイルだ、覚えておけバカ面ども」  立ち去ってしまうユイルにワックは戸惑いと興奮に満ち溢れていた。
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