《戸惑い》

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《戸惑い》

 自分に襲い掛かろうとしていた軍人たちを一網打尽にした不思議な男、ユイルはその場から立ち去ろうとする。すると袖をぎゅうっと掴まれた。  驚きのあまり振り向くと金色に深緑の大きな瞳をした長い髪の子供が興奮した様子で見上げていたのだ。 「あんたかっこ良かったっす! どうやって倒したんすか?」 「……どけ」  それでも退()かずに袖をさらに握り締めた。ユイルは目を見張る。 「おいらはワックっす。あんたユイルって言ったっすよね?」 「……邪魔」  それでも回り込んでユイルの前に立ち上がりにっこりと微笑んでいる。ユイルは額に汗を垂らす。 「どうやって倒したんすか? まさか魔法とか――」 「お前、それ以上話すと死ぬぞ」 「……っえ?」  どういうことかを知りたかったがユイルは悲哀に満ち足りた顔をして歩き出してしまう。取り残されたワックはわけもわからないまま、村長に酒を届けるために別れたのだ。  村長には酒を届けることができたが絡んできた軍人の話や現れた男の話をすると、村長は長いひげをたくわえては「嵐が吹き荒れるかもな」少し心配げだが勝負師のような顔をしていた。  ワックは意味がわからないという様子で差し出されたぶどうジュースを飲む。とても甘く美味であった。 「どういうことっすか、村長。その男がやばいんすか?」 「まぁ危険な男ではあるだろう。ただ、――仲間に付けたらこの村を変えられるかもしれない」  村長は白髪の髪をかき上げてから「その男を見つけるんだ、ワック」命令をしてきたのでワックはお前がしろよなどと思いつつも、世話になっている村長の言うことを聞くことにした。  ユイルは今日、自分は野宿をするつもりで枯れ木を探していた。森には軍人らしき人間が居たので絡まれたが――軍人は顔を蒼白させて泡を吹いていた。  その姿を見てよく思う。自分の能力は死人を出させると。  特効薬があれば完治できる病気の能力だと昔言われたことがあるのだが、本当にそうなのかさえ不明だ。  自分が話すたび、触れるたびに人間が真っ赤な顔か青い顔を見せて最悪――死ぬ。  その姿を何度も見ているのでユイルはもう耐えられないのだ。 「もう、うんざりだ……」  すると足音がしたので振り向けば――死んでいるはずの少年がにっかりと笑っていた。ドサリと驚いて腰を抜かすユイルにその子供、ワックは首を傾げる。 「どうしたんすか、腰抜かしちゃって? おいらが現れたの驚いたっすか?」 「お、お前……死んでない?」  はあ? などとワックはさらに首を横にした。 「死ぬわけないじゃないっすか。勝手に殺さないで欲しいっす。――それより枯れ木なんか持ってどこ行くんすか?」  戸惑いの色を見せながら「野宿をしようかと思って……」答えた瞬間に手を掴まれたのだ。目を見張った。 「おいらの家に泊めるっす。その代わり泊まる代わりにお願いがあるっすからね!」 「は、はあ?」  自分の持っている死人の能力が通用しないことにユイルは当惑したのだ。
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