《死のヒーロー》

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《死のヒーロー》

 洗い物をしながらワックはこの村の情勢について話し出した。 「この村は植民地に侵されつつあるんす。観光業を皮切りに軍事作業が進められたら……あっけなく領土と化されたっす」 「……俺になにができる。――俺に人殺しでもしろと?」  ワックは俯いてしまった。そういうことかとユイルは思う。  ワックはユイルの力でこの村を救って欲しいのだ。そんなことなど知ったことかとユイルはよく思う。  だがワックの真剣みを帯びた瞳には興味が惹かれた。太い息を吐いたかと思えばユイルは「じゃあお前は来るなよ」そう伝えて皿をを拭きあげた。  軍事支配を受けているアンテリゼ村の森奥底にその者が居た。  彼の名はジェス。破壊兵器を製造しているマッドサイエンティストだ。  今日もまた造っている彼に一人の軍人が入って来た。 「ジェスさんっ、大変なんです! 複数人の軍人が倒れました!」 「……なんですって、それは。原因は?」  白衣をはためかせ、ぼさぼさの茶髪をかき乱すジェスに若い軍人が敬礼する。 「恐らく原因は風邪……いえ、インフルエンザというべきでしょうか。とりあえず、薬を飲ませるがあります」 「ふぅ~ん、インフルエンザね。まぁ薬でも飲んだら平気でしょう。……それより、なにか報告があってここに来たのではないですか?」  若い軍人は少し戸惑いとためらいを覚えつつも「少年と男が来て、絡んだらそうなった……そう聞いております」どのような表情で話せば良いのかわからぬままの状態であった。  ジェスは森の警備に監視カメラを付けている。軍人に時刻を聞いて調べ上げたところ――黒髪に白髪の交じった男が軍人たちを退(しりぞ)けたちまち身体を悪化させるではないか。  これは生きた化学兵器だとジェスはにやりと笑い、自分もまた化学兵器を造るのに打ち込んだ。  一夜が明けてユイルは軍人のアジトへ向かおうとした……のだが。 「なんでお前もここに来る、――ワック」  なんとワックも乗り気で居ようとしていたのだ。ワックはカメラを手にしている。 「これで証拠を掴めば軍人たちは逃げるっすよ! おいらはユイルさんの後ろに居るんで大丈夫っす」 「大丈夫って……まぁいい。お前は俺にとってどういう存在なのか気になるしな」 「証明できるのならそれでいいっす」  二人は視線を合わせアジトへと向かうのだ。  監視カメラの映像でジェスがニヒルに微笑みながら軍人たちを生贄に晒そうか迷っているのだが……軍人たちには内緒で二人のことを言わずにそのまま計画を続行するのだ。
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