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《最強の二人》
取り巻いた軍人たちをインフルエンザに感染させる能力で感染させて打ちのめしたユイルに傍に居たワックではあったが難関が待ち構えていた。
それは鉄格子に嵌められていた機械のようなものである。
「なんだこれは。ワック、お前は来るな。――俺が調べてみる」
「あ、はいっす!!」
慎重に探るように鉄格子を外しその機械に触れた――瞬間になにかが噴出した。
慌てて仰け反るユイルではあったがもう遅い。頭がぐらつくようなそんな状態であった。
「ユイルさんっ! 大丈夫っすか?」
「お……前、平気、か?」
「おいらはなんともないっす。でもこれは一体?」
「――バイオテロを知らないかね?」
ふとした声に耳を傾ければ装備を着た人間がそこに居た。バイオテロとはどういうことかと思いながらワックはユイルに触れる。
ユイルの顔が少し和らいできた。
「君たちのことは監視カメラで見させてもらったよ。……特にそこの黒髪の男。君はすごいね。私の研究にぜひ携わって欲しいぐらいだ」
「――研究だと?」
男は、いやジェスは両腕を広げた。
「まずはこの村を植民地化に置く。いや、その前に反感を覚える人間たちに裁きを与えるのですよ。なんだっていいが、私は科学者だ! 科学でこの世界を豊かにできるのなら――ぜひ科学で人を蹂躙したい!」
高らかに笑いながら感染源を放つ機械を雄弁に語るジェスにユイルは先ほどの弱った身体はどうしてだが軽くなり、――歩くことができていた。
ジェスは瞬く間に驚き恐怖で声を上げる。ユイルが拳を振った。
「ふざけんなクソ野郎。俺を道具にすんじゃねぇっ!」
バコンッ! という音と共にジェスは名も聞かれずにボコボコにされた。
その後、アンテリゼ村では弱体化した軍隊に怒りを覚えていた村人が反乱を起こしたそうだ。そのおかげで軍人の拠点は去り、アンテリゼ村に平和が訪れた。
「なぁ、ワック。お前は俺よりもすごい力を持っているって知っていたか?」
「すごい力……ってなんすか?」
窓辺でぶどうジュースを飲むワックにユイルは優しげな目線で見つめた。
「お前は感染した者の相手を無毒化させる力を持つ能力者だ」
「え。それって……」
「あぁ。お前は俺にとっての薬のような存在だったんだよ」
愛しげに見つめるその姿にワックは視線を外し「そうすか……」などと恥ずかしげな顔をする。
ユイルが空を見上げた。
「俺にとってお前の力が必要だ。俺はこの力で世界にワクチンを作らせたい。そしてその協力をお前にもして欲しい」
「おいらにも……すか?」
「あぁ。――駄目か?」
告白のような言い分にワックは戸惑いつつも頷く。そして二人はハイタッチをしたのだ。
「そうだ、言ってなかったっすけど――おいら、女なんで!」
「……え?」
深緑の瞳が爛々としていた。
~Fin~
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