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2.ツンデレ、友人から怪しいものを買う
「はぁ~~~……」
赤らんだ顔でカウンターに突っ伏す対馬。右手にはウィスキー水割りの入ったグラスが握られている。
「深いため息だなぁ、対馬。
なんだ、また例の後輩君とのことか?」
暗がりの静かなバー。
隣に座り笑いかけるのは、対馬の幼馴染の友人、喜田。
喜田とのこのバーでの飲みは月2、3回お決まりの恒例行事。互いの近況報告や、愚痴聞きや、恋愛相談。
唯一心の許す相手の喜田に、対馬はすべて包み隠さず自分の想いをぶつけていた。
「うぅん……後輩…うん。
何なんだよ、あいつ。ほんと、マジで…意味わからん」
酔いがまわっているのか目をトロンとさせたかとおもいきや、思い出したかのように対馬は眉を顰める。
「対馬をこんなにも惑わせるなんて、罪な後輩くんだよなぁ」
喜田はふふふと笑って赤ワインを口の中へ流し込む。小皿に入ったピスタチオの殻をペリ、ペリ、と爪の先で捲る。
「喜田、きいてよ。
まじ、ムカつくんだ…あいつ。ほんと。
あいつの方から、俺に告ってきといてさぁ。
『先輩のことが死ぬほど好きですお願いです付き合ってください!じゃないと俺この会社ビルの屋上から飛び降りて死ぬかもしれません!』
って……。
衝撃すぎて一字一句忘れずに思い出せるわ……」
「うん。それもはや告白じゃなくて脅しだよな。……対馬、よくお前も受けたよな」
「…………」
グイッとウイスキーを口に流し込む。
「それから3ヶ月。ちょーど…来週の明けで3ヶ月だ。
………俺たち、何したと思う?」
「スイーツ食べ歩きデート、だろ?」
「……………うん。
あれ、俺話したっけ…?」
毎週毎週耳ダコだよ、と喜田は苦笑いする。
「いやまあしかし、対馬相手にその後輩君、3ヶ月何もなしとは…なんていうか変わってるなぁ。
俺がそいつなら、告ってOKもらったその日に押し倒してるよ。めちゃめちゃに。もう朝までヤリまくるね」
「何言ってんだ、お前の彼氏にチクるぞ」
喜田は“ジョークだよ”と笑う。喜田には男の恋人がいる。その付き合いは3年にわたっており互いのことを“パートナー”と呼ぶほどの信頼感、仲睦まじさ。
だからこそ喜田には打ち明けられたのだ。
後輩・榎本とのその関係を。
「まあ、自信持てよ、大丈夫。
対馬お前は十分色っぽいから。現にこのバーで俺を待つ間、何人に声をかけられた?男女問わずな。」
「………」
確かに、容姿には自信がある…というのは嘘ではなかった。
昔から言うまでもなくモテてきた。
男磨きだなんてことは別にしておらず特段努力もしていなかったが、元々整った顔立ちに、趣味の早朝ランと月1~2回参加するハーフマラソンのおかげで筋肉のつきすぎない締まった体付きが出来上がっていた。
正直いつ脱いでも脱がされても、準備は万端。
「それなら、原因は俺じゃないということか?」
「さぁな。
あくまで憶測でしか話はできんが…最近はわりとドライな考えのやつも多いだろう?
プラトニックで満足できちゃうような…極端に性欲に乏しい、とかな。そんな淡白男も多いよ。
俺には考えられんことだ」
(なんだ、それ。俺に原因があるんなら…やつが、榎本が俺にまっったく何もしてこない理由が、俺の努力でどうにかなることなんだったら…何だってするのに。)
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