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ドクン、ドクン、と高まる鼓動をおさえながら、薬の個包の端をちりり、と、破き開けた。指で押し摘み中を覗くと、サラサラした白く目の細かい粉末が見える。
(良かった、めちゃくちゃ溶けやすそうだ。
あと色も……真っピンクとかじゃなくて……良かった。気持ち罪悪感が薄れる。)
これならまだ言い訳できる、最悪見つかっても「あ、これ?便秘薬だけど?」くらいで通せそうだ。
ーーーもはや動揺が思考回路を滅茶苦茶にしに来ている。
「……………」
手前に置いた方のコーヒーカップを見つめる。
よしもう腹を括ろう。
こちらを、いざ…榎本を獣に変える、かもしれない媚薬入りコーヒーへと……
その時。
「先輩、そのコーヒードリッパーいいっすね。どこのメーカー?」
「‼︎」
先程までリビングのカーペットの上に座っていたはずの榎本が、気づくとすぐ横にいて。驚きのあまりビク!と対馬は肩を震わせた。
ーーいつの間に⁉︎と視線を上げ慌てて手元を隠すよう動かした瞬間。
手指の震えのせいで、そのあやしいクスリの粉末はサラサラサラーーと、どちらかのコーヒーカップの中目掛けてまるで粉雪のように降り注いでいた。
視線を戻した頃にはーー…時、すでに遅し。
(やばい。やばいやばいやばいやばいやばい。
これどっちだ?どっちのカップに入った?
やばい……)
こんな超絶の2択ギャンブル、したこともない。完全にビビってしまった対馬はコーヒーを捨てて新しいものを淹れよう、とソーサーを持とうとするが、
「あ、めっちゃいい香り。コーヒーありがとう先輩。俺、持って行きますよ。」
「へぇっ⁉︎あっいやあああぁ、あ、は、はい。
いや、あーーう、うん」
有無も言わさず連れて行かれる普通のお高めドリップコーヒーと、媚薬入り獣コーヒー。
もはやどっちが…なんてまったく考える方が無駄だ。
ああ、やばい。
やはり、神は、お天道様は…見ているのか…行いを……。
「先輩。コーヒー飲みましょうよ。こっち来て。
マカロンもほらせっかくだから開けて。
ーーーほら、早く」
「…………」
(てめぇ、この榎本……。
人の気も知らずに何を呑気なことを…マカロンなんざ食ってる場合か。
今のこの俺の選択次第で、俺かお前のどちらかが理性を忘れた獣になってしまうかもしれないんだぞ。
いいのかよ。)
いいのかよって……そうしようとしたのは自分だ。
(よし、腹を括ろう。(二度目)
ーーーもし神がいるのならば…真っ当に真面目に慎ましくこれまでの二十五年間生きてきたこの俺に、きっと味方をするはずに違いない。)
「………いいだろう。飲んでやるよ」
「???」
小さく震える手でティーカップを持ち上げた。
同時に榎本もいただきまーすと言いながらコーヒーを口に運ぶ。
グビ………
「ーーーーーー‼︎‼︎」
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