A-4、15年前 横浜

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 大輝が家に入ると妙に家の中が静かだった。リビングに入ると母と制服のエリカが倒れていた。 床に真っ赤な水たまりができていた。大輝の足元が滑った。 壁に赤い液体が飛び散っていた。エリカも母も、綺麗な顔が恐怖に歪んだまま、目を見開いて口が半開きになっていた。ピクリともしない。壊れた人形のようにあり得ない姿勢で倒れていた。 二人の服も血に染まっていた。  奥の和室から、返り血を浴びた醜いブタが出て来た。 「お前らがいるから、真実の愛を貫けないんだ。可哀そうな。あの人・・・かわいそうな私たち!」 ブタの両手には、二本の刺身包丁があった。 母とエリカの真っ赤な血、ブタが浴びていた二人の血、リビングの壁の模様になった母と妹の血・・・その瞬間、大輝の「第三の目」が開いた。額から熱を感じた。父とこの女の情事が走馬灯のように見えた。 女の過去、その心の動き、狂った論理が一瞬で大輝の中に入り込んできた。 この女は外側だけじゃなく中身も醜い!怒りが大輝を飲み込んだ。 血まみれのブタは刃物を翳して大輝に襲い掛かってきた。大輝は持っていた剣道の竹刀で女の頭を叩き割った。 女は死ななかった。ただ人間としては終了した。  この事件をきっかけに大輝は父と縁を切った。大学までの金は貰った。 見えるようになったことについて、父から説明があった。 「田中家は元は神道の家だ。まれに『神の血を引くもの』が出ると言われている。」
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