イノセント

A－５、決意

　まりなは考える。
私は大輝の言う「イノセント」であっただろうか。答えはノーだ。

彼から見た私は、他人を見る目が歪んでいる。スペックで人間を仕分けている。そんな女に見えていたのかと憤りを感じる。
　私はただ、大輝が好きだっただけだ。愛されたいとも思うのが間違っていたと言うのか。

　大輝は大きな心の傷を持っていた。私はそれに気づきもしなかった。
進まないお付き合いにイライラしていた。だから、大輝の心が見えなかった。それだけだ。それに何の罪があるというのだろう。

　大輝は私を「イノセントではない」と切り捨てた。今は、他の女と付き合っている。
　あの女と私の何処が違うと言うのだろう。

　彼が、私の手も握らなかった理由が今は分かる。
私は彼から汚れていると決めつけられた。イノセントではない人間だから。
私は、普通の人間だ。

　私だって、彼が言うイノセントとは違っていても、純粋で無垢な心を持っている。
　普通の女が普通に幸せになりたいと思うのは、不純な事なのだろうか。

　大輝は私に言った。
「幸せになってくださいね」と。

　大輝の言葉は慰めや応援ではない。厳しい言葉だ。
「自分で幸せになれ」と言ったのだ。

　自分の幸せをどう見つけていくかは私次第だ。

　私の未来は未だ決まっていない。