B-1、10年後

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「余分なものを持たされた者には、お役目があるのですよ」  大輝は何を言われているのか分からなかった。首をかしげていると、神主さんは、にっこり笑って「そのうちに分かります」と言った。  神主さんと奥様の色は色ではなく輝きだった。  奥多摩から帰った2か月後、はるの妊娠が発覚した。どうやら避妊に失敗したらしい。はるが泣きそうな顔で「どうしよう・・・」と言うので、大輝も決意が固まった。 堕胎なんてするわけがない。  少し気になったのは、はるは今、36歳だ。大丈夫だろうかということだけだった。  「今時,37の出産なんて珍しくありませんよ」と医者に軽く笑われた。 二人で、「赤ちゃんをむかえるために」とか書いてある資料?パンフレット?通販カタログ?を沢山もらって家に帰ってきた。  子供が欲しくなかった筈なのに、まだぺったんこのはるのお腹の中に自分たちの子供がいると考えると、早く時間が経たないかなと思ってしまうのが大輝には不思議だった。  過去を振り返って見ると恐怖を感じるほど今は幸せだ。 入社したころ、自分の見た目と学歴だけで寄って来る気持ち悪い女、男同士の見栄、接待の風俗、周りの不倫、マウントの掛け合い・・・全部が色で見えてしまう。真実が分かってしまう。そんな自分にとって社会は地獄だった。
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