B-2、泉田課長

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B-2、泉田課長

 泉田まりなは40歳。総務部第2課の課長。男ならもっと早くに課長になれたと思うと怒りが抑えられなくなる。この日本社会は、女だと言うだけで割を食う。  変な男と結婚するくらいなら独身の方がいいと生き方を方向転換させたのは30歳の時だった。自分を馬鹿にした大久保も田中も私の下で使ってやると決心した。自分で自分を幸せにしようと思った。  結婚だけが幸せじゃない。 少し目を離すと若い女子社員は直ぐにサボる。今も給湯室に入ったきり出て来やしない。  まりなは、自分のカップを持って給湯室に入った。これ見よがしに自分で自分のカップを水洗いする。それでも、最近の若い子は空気を読まない。噂話で夢中だ。 「泉田課長、ご存じですか?コンプラの田中室長のところ、おめでたみたいですよ。奥さん、タレント学者で顔も売れてるじゃないですか。大きなお腹で歩いている所を経理の子が見たんですって」 まりなは、カップを洗い続けながら素っ気なく「あら、そうなの?」と言った。 「田中室長は『人違いでしょ』と言っているらしいですけど。テレですね。きっと」 「おめでたい話ね」 まりなは、ニコニコしてそう言うと給湯室を後にした。 水にぬれたカップをデスクに置くと、まりなはドスンと椅子に座った。 言いどころのない想いが溢れ出した。 子供・・・男は何でも手に入れてしまう。 男は40過ぎても子供に恵まれる。女の40は絶望的だ。 組織の中でも、男であるだけで優遇されていると言うのに・・・そもそも、総務なんて雑用だ。
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