B-2、泉田課長

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田中は営業からコンプラに異動になって5年で室長。評判がいい。 大久保は、また社内不倫をやらかした時に地方支社に飛ばしてもらった。その件については田中もこっち側だった。実際に飛ばしたのは私。二度と戻れない片道切符だ。  男が持っていない武器を私は持っている。私は、この組織の中でも最高の部類の権力を持つ男を操っているのだから。  女の40歳は、60近いジジイにとっては若い。小娘たちより世間を知っている。社内の事も勿論知っている。私は、元々持っている美貌と偉い人の前でも完璧に立ち回る頭脳と経験を持っている。ピロートークの合間に媚びて、甘えて、時には脅してスケベジジイを動かす。 もう手慣れた「ジジイ転がし」だ。  31歳の時、一人目の執行役員の愛人になった。 それからは、派閥が変わるたび男を乗り換えた。相手の男が「使えない」と分かったら、さっさと泥船は捨ててきた。  私の役職、「課長」も11月で終わる。 12月一日(いっぴ)で「部長」の辞令が降りることになっている。 今の部長は、若いバカ女とデレデレしてるから、コンプラ違反で降格も決まっている。 くそ真面目の田中も異論なし。 部長が本当に不倫しているかどうかなんて知ったこっちゃない。らしい証拠の捏造と、私の可愛い彼氏がゴリ押しして邪魔者を引きずりおろす。  私の闘いも時間との勝負だ。50過ぎたら武器が通用しない。一日でも早く上に上がらなけらば。私自身が執行役員にならなければ未来はない。 結婚して幸せになる?バカじゃないの? 専業主婦って「無給の家事労働者」だよ。そんなもんより、組織の上の方に行って自分が稼いだ方が利口だ。  よく思い出す田中の言葉。 「幸せになってくださいね」 思い出すたび笑ってしまう。大輝、私の幸せは安くなかったよ。
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