B-4、失踪

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B-4、失踪

 出産まで3週間を切った。来週には、はるのお母さんが僕たちのマンションにやって来る。はるのお腹は破裂寸前に見える。はるは、「よっこらしょ」と言いながら家の事をしている。  僕は、はるが、なるべく無理をしないように家事の手伝いをしている。 「あ・・・いたた・・・」とはるが言う時がある。僕が慌てて「生まれるの?」と言いながら側に寄ると、大抵は陣痛ではない。 「お嬢様は暴れん坊なの。お転婆娘になりそうよ。良く動く。動くと痛いくらいなの。お産が近づいてくると動かなくなると聞いてるのに、この子は出たくて暴れているみたい。早く出て来ればいいのにね」  僕たちが住むマンションは大きな公園のすぐそばだ。毎朝、僕は出勤の前に、はるの運動がてら二人で大きな池のある公園を一周する。  この公園が気に入って、今のマンションを買った。春になればソメイヨシノ、その後にはサツキ、菖蒲、アジサイ。池には蓮の花も咲く。  寂しい冬でも葉牡丹が植えられる。そして、椿、梅、桃・・・ 「お嬢ちゃんが歩けるようになったら、毎週この公園でピクニックだね」  はるは、そんなことを良く言っていた。 「名前は?お父さん」 「生まれたら教える」 季節は冬だった。公園は寂しくて、葉牡丹ばかりが目立っていた。
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