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結論は、足を滑らせて池に落ちた事故死ということになった。
大輝が会社に居た昼前に、マンションを出て行くはるの姿がエレベーターの防犯カメラに写っていた。それで、大輝への疑いは晴れた。
荼毘に付された二人の遺骨。生まれることが無かった娘にも出生届が必要で死亡届も必要だった。娘の名前は「ゆい」と名付けた。
大輝は、現実感の無い現実の中に居た。初めてではなかった。二度目だった。前は、憎くても父がいた。今度は誰も居ない。
涙も出なかった。涙を流す心の隙間さえ大輝は失っていた。
1か月、会社を休んだ。体重が5キロ減った。
1カ月と少しぶりに出社した。職場のみんなは大輝に何と声をかけていいのか戸惑っている様だった。
大輝は、部下たちに頭を下げた。
「もう、大丈夫です。仕事をして居た方が気がまぎれます。ご心配をおかけしました」
その言葉を聞いたコンプライアンス室のみんなは少し安心した。
大輝は、自分の部下たちの「色」を一人ずつ確認した。自分を未だ殺人者だと疑っている者が数名いた。それ以外の者は、どうしたらいいのか分からないほど、大輝を慮っていた。
大輝には、その思いやりの心の方が返って重く感じていた。
仕事をすることでしか、自分も死なずにいる方法が見つからなかった。愛した肉親が皆、死んでしまった。顔を見ることも出来なかった小さな娘まで。
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