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2年前のある日、社食で不機嫌そうにスマホを弄っていた大輝に、まりなは勇気を出して話しかけた。
なるべく、さりげなく「私と付き合わない?」と言った。大輝はスマホから顔を上げると、まりなをじっと見た。
それは数秒だったと思う。でも、もっと長い時間に感じた。
「べつにいいけど・・・」と大輝はニコリともしないで答えた。まりなは、大輝にお願いしてラインを交換した。
ラインをするのは、何時もまりなの方からで、大輝からの返信は短い業務連絡のようなものばかり。誘えば休日にデートしてくれる。
でも、お子様デートだけ。これでは駄目だと思って「大輝の部屋に遊びに行きたい」と言うと、大輝は本当に嫌そうな顔をして「他人を部屋に上げるのが嫌いなんだ」と言う。
本心ではないのに、大輝の方から振ってくれればいいのにとさえ思う。自分では決められない。
本当に気が無いのなら、2年も付き合わない。
まりなは、そうやってなんとか自分を納得させていた。
そんな2年目も終わろうとしていた土曜日、二人はオープンカフェでお茶を飲んでいた。相変わらず、大輝はビジネス書を読んでいる。まりなは、この恋の匂いの欠片もない空間で、ぼんやりしていた。時折、大輝に声をかける。短い返事が返って来る。まりなの顔も見ない。
「あれ?田中先生じゃないですか?」
突然、若い女の声が響いた。まりなが其方に目を向けると、ボブカットの黒縁眼鏡女が立っていた。白いブラウスに黒のパンツ。黒のカーディガンを着ていた。眼鏡が無くても十分なブスだと、まりなは思った。
大輝は、座ったまま本から目を上げた。
「はるちゃん?大きくなったね……えっと、あれから10年経つね。大人だね。大きくなったは失礼だ」と笑いながら言った。
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