A-1、意味ある?

3/4
前へ
/47ページ
次へ
 2年前のある日、社食で不機嫌そうにスマホを弄っていた大輝に、まりなは勇気を出して話しかけた。 なるべく、さりげなく「私と付き合わない?」と言った。大輝はスマホから顔を上げると、まりなをじっと見た。 それは数秒だったと思う。でも、もっと長い時間に感じた。 「べつにいいけど・・・」と大輝はニコリともしないで答えた。まりなは、大輝にお願いしてラインを交換した。  ラインをするのは、何時もまりなの方からで、大輝からの返信は短い業務連絡のようなものばかり。誘えば休日にデートしてくれる。  でも、お子様デートだけ。これでは駄目だと思って「大輝の部屋に遊びに行きたい」と言うと、大輝は本当に嫌そうな顔をして「他人を部屋に上げるのが嫌いなんだ」と言う。  本心ではないのに、大輝の方から振ってくれればいいのにとさえ思う。自分では決められない。  本当に気が無いのなら、2年も付き合わない。  まりなは、そうやってなんとか自分を納得させていた。  そんな2年目も終わろうとしていた土曜日、二人はオープンカフェでお茶を飲んでいた。相変わらず、大輝はビジネス書を読んでいる。まりなは、この恋の匂いの欠片もない空間で、ぼんやりしていた。時折、大輝に声をかける。短い返事が返って来る。まりなの顔も見ない。 「あれ?田中先生じゃないですか?」 突然、若い女の声が響いた。まりなが其方に目を向けると、ボブカットの黒縁眼鏡女が立っていた。白いブラウスに黒のパンツ。黒のカーディガンを着ていた。眼鏡が無くても十分なブスだと、まりなは思った。  大輝は、座ったまま本から目を上げた。 「はるちゃん?大きくなったね……えっと、あれから10年経つね。大人だね。大きくなったは失礼だ」と笑いながら言った。  
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加