C、第3の目

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 まりなは、専務の失脚に声も出なかった。 次は、どうしたらいいんだろう。資料編集室に行ったら、もう二度と這い上がれない。それも降格で主任。理由は、元吉に不倫の濡れ衣を着せたと人事に詰められた。これは多分口実に過ぎない。  本当の理由は、専務とのことだ。仕方がないじゃないの。女が上に上がるには上の男と寝るのも仕事のうち。そんなの社会の常識じゃない。  混乱しながらも、まりなは身の回りの物を片付けていた。 総務と資料編集室を何度か往復した。 何度目かで田中大輝を見かけた。まりなは大輝に声をかけた。 立ち止まった大輝は真っ直ぐに、まりなを見た。 「どうして、私が降格で資料編集室行きなの?」 「さぁ?人事の事は知らない。僕はコンプライアンスが専門だ。企業におけるコンプライアンスとは、個人情報の漏洩、システムの不正利用、どうしたらいいんだろう。パワハラ、セクハラ、金の着服・・・それ以外にも色々ある。解釈も色々だ。バレなきゃ何をしてもいいってことじゃない」 「わたしは、悪いことなんか何もしていないのよ」 まりなは、涙を溢して言った。 「なら、資料編集室で頑張れ。真面目に仕事をすれば見てくれる人もいるよ」 大輝は、社交辞令を言いながら、第3の目でまりなの過去をさらに覗いた。  そして、これからの方針が決まった。もう、迷いはない。
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