D、復讐

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D、復讐

 まりなと大輝は昔のように付き合い始めた。 大輝は、手も握らず、家にも上げず、素っ気ないラインのやり取りしかしなかった。 それは、まりなにとって、26の時からのやり直しのように感じていた。  あの邪魔者たち、大久保や、はるが現れる前の二人に徐々に戻っていく気がした。以前の大輝と少し変わったところもある。時々黙って、まりなをじっと見つめていることがある。  そんな目で大輝がまりなを見ることは無かったので、まりなの心は期待と希望で満ち溢れていた。  大輝は、魔物を観察していた。人間と言うものは、どんなに凶悪な犯罪者であろうと、罪悪感の欠片ぐらいはあるだろうと思っていた。驚いたことに、この女は、頭の中で事実をすり替えている。  自分から、大久保を誘って、騙されて捨てられたのを、全部大久保のせいにしている。大久保の女癖が悪いのは、周知の事だったし、大久保は誰かれ構わず女に「好きだ」と言っていた。  はるは横入りした邪魔者で、消えてくれてせいせいしたとしか思っていない。自分が殺したことも記憶から消えている。  この女は、数多の障害を越えて、また僕との恋愛が始まったと解釈している。どうしたら、そういう思考になる?  精神病でも何でもない。解離性人格障害でもない。 怖い考えだが、これが「普通の女」なのかも知れない。僕の本意など考えることもない。これは、昔と少しも変わらない。 好きだと思い込んでいる相手ですら、自分の利益を引っ張る対象でしかない。
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