D、復讐

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富士登山デートの日は晴れ渡っていた。 二人で立てた計画で、初心者向けの富士宮ルートを上ることにしていた。五合目の駐車場に大輝の車を止めて、二人で買い求めたオシャレな登山ウェアに身を包んで、まりなはうきうきしていた。  朝6時、登山開始。夏の富士山は人が多い。この富士宮ルートは上り下りとも道は同じで迷いにくい。それなのに、下山してくる人たちと登山する人たちが、ごちゃごちゃになる事が何度も会って、気が付いたら大輝とまりなは人気のない山肌に居た。  まりなは疲れてしまって座り込んだ。 大輝は「休んでいていいよ。僕は、ルートに戻る道を探してくる」と言って、まりなを置いて何処かに行ってしまった。 まりなはザックの中から、水筒を出してお菓子をつまんでいた。  大輝は、まりなから見えない位置の岩陰に身を隠した。わざわざ富士宮ルートを選んだのが狙い通りになった。一番初心者向けのコース。でも、道に迷い易い。人に紛れて、人気のないところに、あの女を誘導することができた。 大きく息を吸い込んで、目を閉じた。大きなお腹で笑っていたはるを思い浮かべた。 そして、ブヨブヨに膨張して腐り始めていた濡れた姿を無理やり頭の中から引き出した。 大輝の顎が上がる。額の中心が突然焼ける様に熱くなった。 霊峰、富士。神の山だ。 僕の中に「神の血」が流れているのなら、それは天罰のように降り注ぐだろう。 大輝は、はるとゆいを想いながら目を閉じて額に集まる熱に集中した。  イメージしたものを、そのまま神にささげるように、両手を前で合わせて片方の手を下にずらした。その瞬間、集まった熱がエネルギーとなって放出されるのを彼は感じた。
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