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まりなは、慌てて社屋に入ってきた大久保を捕まえると訊いた。
「田中さんに何か言ったの?」
大久保は掴まれた背広を引っ張ると口をとがらせて答えた。
「何にも言ってないって」
まりなには、子供っぽい表情をする大久保が純粋に見えた。
「私ね、大久保さんとお付き合いしたい」
「本当?うれしい!泉田さんみたいな綺麗な彼女ができた!やった!」
大久保は飛び切りの笑顔を見せてくれた。
綺麗な顔をしていても、田中のあの仏頂面はもう見たくなかった。
昼休みになると、まりなは、何時もの定位置に一人でいる大輝の側に近づいた。相変わらずスマホを弄っている。
まりなが「忙しい?」と声を掛けたら、スマホの画面を見たまま「忙しい」と返事が返ってきた。
「ライン?」
「そう」
大輝は、一切まりなを見ない。
「何よそれ。態度が悪い。礼儀も知らないの?」と、まりなが小声で言ったら、大輝は、やっと顔を上げた。
「君は、僕に話があるんでしょう?」
まりなは用件だけ言った。「別れてと言うほどの間柄ではなかったけど、もう仕事以外では会わないから」
「うん。わかった」
2年も付き合って、これで終わりだった。
まりなは2年を返せと言いたかったが、次の彼氏がいるので言わないで我慢した。
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