求愛(3)

1/1
前へ
/16ページ
次へ

求愛(3)

「ミー、ほお袋膨らませるの、可愛いだけだからな」 「きゅう」 「マジかわいいな」 「リューク、声が止まらなくなっちゃうよ……」  きゅうは、好きの声。  好きの声がリュークを求めている。きゅう、きゅう、と何度も鳴いてしまう。 「ミー、南の国で俺の嫁になってほしい」 「うん、南の国でリュークのお嫁さんになりたい」  わたしの返事のあと、リュークは目尻を下げてニカッと笑った。 「リューク、大好き」 「ん、俺もすげー好き」 「きゅうう」 「ミー、もっと声聞きたいけど──先に飯食え」  好きの声とお腹の音が同時に鳴ったわたしを、リュークが吐息で笑う。わたしの尖らせた唇へ、なだめるようなキスを落としてくれた。  とろとろのシチューをひと匙掬って、口に運ばれる。わたしはリュークの手に指を絡ませて、ぬくもりを求める。きゅう。太い指でやわらかなパンをちぎって、ひと口食べさせてもらう。空いたリュークの手のひらに丸い耳をすりよせて、撫でてほしいと求める。きゅう。    きゅうは、求愛の声。  もうだめ、やっぱり好きが止まらない。リュークに触れたくて、触れてほしくて、求愛の声が高くなる。脳の芯までぼうっとして、瞳に涙が集まってくる。 「リューク、もう……お腹いっぱい」     絡ませていた手を引き寄せて、リュークの指先にキスをした。ちゅ、と音を鳴らし、ちゅう、と吸いあげる。指を口にくわえて小さな舌で懸命に舐めた。くすぐるように動くリュークの指の腹を(やわ)く噛んで、爪を甘やかに噛む。  リュークを見上げると、赤い瞳に熱が灯ってゆらめいていた。 「はあ、ミー、それ煽りすぎだからな」 「きゅう」  きゅう、は発情の声。  冬眠が終わると、春になる。  春は、恋の季節。  だから、もう、リュークが欲しくて──   「今日、泊まっていい?」  鼻の触れ合う距離。リュークの殊更甘く掠れた声で問われて、体温が上がる。好きの声より先に、リュークの首に腕をまわして甘い未来(これから)をねだった。      おしまい
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

41人が本棚に入れています
本棚に追加