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求愛(3)
「ミー、ほお袋膨らませるの、可愛いだけだからな」
「きゅう」
「マジかわいいな」
「リューク、声が止まらなくなっちゃうよ……」
きゅうは、好きの声。
好きの声がリュークを求めている。きゅう、きゅう、と何度も鳴いてしまう。
「ミー、南の国で俺の嫁になってほしい」
「うん、南の国でリュークのお嫁さんになりたい」
わたしの返事のあと、リュークは目尻を下げてニカッと笑った。
「リューク、大好き」
「ん、俺もすげー好き」
「きゅうう」
「ミー、もっと声聞きたいけど──先に飯食え」
好きの声とお腹の音が同時に鳴ったわたしを、リュークが吐息で笑う。わたしの尖らせた唇へ、なだめるようなキスを落としてくれた。
とろとろのシチューをひと匙掬って、口に運ばれる。わたしはリュークの手に指を絡ませて、ぬくもりを求める。きゅう。太い指でやわらかなパンをちぎって、ひと口食べさせてもらう。空いたリュークの手のひらに丸い耳をすりよせて、撫でてほしいと求める。きゅう。
きゅうは、求愛の声。
もうだめ、やっぱり好きが止まらない。リュークに触れたくて、触れてほしくて、求愛の声が高くなる。脳の芯までぼうっとして、瞳に涙が集まってくる。
「リューク、もう……お腹いっぱい」
絡ませていた手を引き寄せて、リュークの指先にキスをした。ちゅ、と音を鳴らし、ちゅう、と吸いあげる。指を口にくわえて小さな舌で懸命に舐めた。くすぐるように動くリュークの指の腹を柔く噛んで、爪を甘やかに噛む。
リュークを見上げると、赤い瞳に熱が灯ってゆらめいていた。
「はあ、ミー、それ煽りすぎだからな」
「きゅう」
きゅう、は発情の声。
冬眠が終わると、春になる。
春は、恋の季節。
だから、もう、リュークが欲しくて──
「今日、泊まっていい?」
鼻の触れ合う距離。リュークの殊更甘く掠れた声で問われて、体温が上がる。好きの声より先に、リュークの首に腕をまわして甘い未来をねだった。
おしまい
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