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「どうぞ。掃除はしてあるから衛生面は大丈夫よ。」
水咲はそう言って先に靴を脱いで上がった。僕は悪寒の正体が分からぬまま、恐る恐る顔を覗かせた。小さな玄関の先には短い廊下があり、その奥に部屋に通じる扉が見えた。
…あの部屋からか。
僕はまだ正体が分からぬまま靴を脱ぎ、廊下に上がった。水咲が部屋の扉を開けると、僕は目の前の光景を疑った。
8畳ほどの1Kの狭い部屋の壁沿いに、この部屋を取り囲むように6人の男が立っていたのだ。
6人全員がこの世の者では無いのは直ぐに分かった。水咲は勿論全く気付いていないのだろう。
「…どうしたの?」
固まってしまった僕を見て水咲は首を傾げた。
「あ、ううん。綺麗な部屋だなぁと思って見入っちゃっただけ。」
確かに綺麗な部屋ではあるんだけどさ。
部屋は向かって左側にベッドがあり、右側にカーペットが敷かれてその上に低いテーブルが置かれていた。そして、その奥に小さなキッチンがあった。
僕は水咲に誘導されてカーペットに座った。ほぼ部屋の真ん中に座っている。
6人の男たちの視線が僕に集中しているのを感じているが、目を合わすことができない。向かって左側に2人、右側に2人、正面と背面にそれぞれ1人ずつ。座る前にパッと見たところ、年代は20代から50代までバラバラだ。
全員が無表情で青白い顔をし、虚ろな目でじっと僕を見ているように感じた。
…何なんだ、この男たち。
男たちはただただ僕をじーっと見てくるだけで、何かを訴えかけてくるわけではない。大学で見る霊たちは、念というのだろうか、何故ここに留まっているのか、この世にどんな未練があるのか、色々な訴えを僕にしてくる。霊は自分たちが見える人間が分かるらしく、見える人間にだけ念を集中させてくる。
だから、僕が大学に行くと、敷地内を歩く度に次々と霊に気付かれ、常に視線を感じ、何か訴えかけてくる。きっと相手にしたら僕に憑いてしまうかもしれないため、気付いていないフリをするのが辛かった。
僕は見えてしまうというだけで、見えないように制御することもできなければ、除霊する力などある筈もない。
僕は子供の時からずっとこうして生きてきた。数え切れないほどの霊の姿を見てきた。
そんな僕でも、この部屋の異常さは初めての体験だった。僕は全身に嫌な汗をかき、ただ下を見ていることしかできなかった。
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