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水咲はコーヒーを淹れてくれて、僕の前にカップを置いた。
「…聖人、どうしたの?」
「あ、いや、…なんか緊張しちゃって、ハハハ。」
誤魔化すしかなかった。
「緊張って!…あ、まさか夜に期待しちゃってんの?」
水咲がニヤついた顔をした。
そりゃ、ここに来る前はそういう期待があった。むしろそのことで頭がいっぱいでした。…が、状況が変わりすぎている。こんな所でそんな気分になるわけもない。
むしろ、水咲はそのつもりで僕を部屋に招き入れたんだろうなと思うほど、対面に座った水咲の視線が何かを期待している輝きを放っていた。
「ねぇ、聖人はさ、あんまり積極的に来ないじゃん。」
「…ま、まぁまだ1か月だし。」
「真面目か。まぁそこが聖人の良いところでもあるんだけどさ。」
今の僕的には、男たちの視線より水咲の視線の方がイタく感じた。
「あ、あのさ水咲。この部屋にはいつから住んでんの?」
「えっと1年前くらいかな。」
「へぇ。ここ家賃いくらくらいなの?」
「家賃?5万円くらいかな。」
…特段安いわけじゃないな。
「何よ、急に。この部屋に何かあるの?」
「ううん、いや、この部屋良いなぁと思って、ハハハ。」
「…ふーん。…ねぇ、シャワー浴びてきていい?」
…断れるわけもない。
「う、うん。」
水咲はニコッと笑うと着替えを持って廊下に出ていった。
「…この部屋じゃなきゃ、舞い上がっている状況なんだけど…。」
僕は何も考えずに右側の男を見た。40代と20代に見える男が同じような目で僕を見ていた。20代の男と目が合ったが何も変化はない。
「…ん?」
よく見るとその男は口を小さくパクパクと開いていた。
「何か言ってるのか?」
僕は立ち上がってぐるりと一周6人を見回した。6人とも何かを言っている。正確には声は聞こえない。ただ、何かを喋っているように口をパクパクしている。ただ同じ開き方じゃなく、言葉を発するように口の形は変わっているので何かを喋っているように見えた。
「…何を言ってるんだ。」
僕は勇気を出して一番近くにいた自分の背面側にいた男に視線を合わせた。この男も20代に見えた。近付いても様子は変わらない。ただ目はずっと僕と合っている。
あまりの怖さと緊張で、自分の呼吸が荒くなっているのが分かる。
「…君たちは何を言ってるんだ。」
僕は男に問い掛けて見た。
男は変わらず口をパクパクしているだけだ。
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